経営×ソーシャル
ソーシャルメディア進化論2016
【第73回】 2016年4月12日
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武田 隆 [クオン株式会社 代表取締役]

個人の意見が政治経済に反映される
“オンライン公共圏”はどうすれば実現できるか

【吉田純氏×武田隆氏対談4】

経済、政治、生活にプラスをもたらすようなオンライン上の公共圏は、果たして存在しうるのか。京都大学教授であり社会情報学者の吉田純先生は、消費者コミュニティは一つの可能性だと言います。消費者コミュニティが今後どのように発展していけば、オンライン公共圏が実現するのか、その方向性を探りました。

カウンター・カルチャーと経済システムを
見事に融合させたスティーブ・ジョブズ

武田前回、参加者が価値観をベースに集まり、つながりあうオンライン・コミュニティは、これからの新しい公共圏となる可能性がある。そして今後はそのオンライン公共圏を、政治や経済につないでいくことが求められる、という話をしてきました。

吉田純(よしだ・じゅん)
京都大学大学院人間・環境学研究科教授。京都大学教育学部卒業。文学博士(京都大学)。専攻は、社会学、社会情報学。「情報化」「ネットワーク化」を軸とする現代社会のマクロな構造変動と、ミクロな人間の行為/コミュニケーションの変容との関係について研究。現在とくに、インターネット社会における「公共性」(コミュニケーション空間としての「公共圏」や知的共有財産としての「公共財」)をめぐる問題を中心的なテーマとしている。主な著書に『インターネット空間の社会学――情報ネットワーク社会と公共圏』(世界思想社) 『情報秩序の構築』(早稲田大学出版部、共著)『応用倫理学講義3情報』(岩波書店、共著)「情報公共圏論の再検討――アーレントの公共性論を手がかりとした試論――」(早稲田社会学会『社会学年誌』46号)『都市とは何か』(岩波書店、共著)等。2001年テレコム社会科学賞、日本社会情報学会研究奨励賞を受賞。

吉田 武田さんがエイベック研究所で取り組んでおられる、消費者コミュニティというのは、オンライン上の公共圏と経済システムをつなぐ一つの可能性であると私は考えています。少し公共圏論の文脈から離れる話になりますが、元来、インターネットの持つ自由な情報共有の理念と経済的な市場原理とは、相容れないものでした。

武田 先生はご著書の中でハッカー・カルチャーにふれて、それは“非経済的な活動の代名詞のようなもの”だったと書かれていました。

吉田 はい。けれどLinuxのコミュニティのように、インターネットが結果的に新しい市場を開拓するような大きなインパクトをもたらしたケースもあります。こうしたケースは、公共圏モデルよりも、ドイツの社会学者、ニクラス・ルーマンの社会システム理論に基づくリスク社会論のモデルで説明するほうがふさわしいと思います。ここでいう「リスク」とは、「自由な選択にともなう意図せざる結果」のことです。近代社会における自由の拡大に伴い、リスクとチャンスの双方が拡大しました。

 経済システムの従来の論理では、ソフトウェアは「商品」であり知的所有物ですから、Linuxのようにソースをインターネット上で公開するなんていうことは“チャンスの放棄”であり、ビジネスの論理に反するわけです。ところが、ソースを公開し、自発的参加者による共同開発を推進したことで、技術的セキュリティや信頼性が向上するという、いい意味で意図せざる結果がもたらされました。リスクに対処するモデルの一つとして、あえていったんチャンスを放棄することで、別の新しいチャンスを獲得するというものがあります。「合理的な自己抑制」と表現されているのですが、Linuxのケースはまさにそれです。

武田 隆(たけだ・たかし) [クオン株式会社 代表取締役]

日本大学芸術学部にてメディア美学者武邑光裕氏に師事。1996年、学生ベンチャーとして起業。クライアント企業各社との数年に及ぶ共同実験を経て、ソーシャルメディアをマーケティングに活用する「消費者コミュニティ」の理論と手法を開発。その理論の中核には「心あたたまる関係と経済効果の融合」がある。システムの完成に合わせ、2000年同研究所を株式会社化。その後、自らの足で2000社の企業を回る。花王、カゴメ、ベネッセなど業界トップの会社から評価を得て、累計300社のマーケティングを支援。ソーシャルメディア構築市場トップシェア (矢野経済研究所調べ)。2015年、ベルリン支局、大阪支局開設。著書『ソーシャルメディア進化論』は松岡正剛の日本最大級の書評サイト「千夜千冊」にも取り上げられ、第6刷のロングセラーに。JFN(FM)系列ラジオ番組「企業の遺伝子」の司会進行役を務める。1974年生まれ。海浜幕張出身。


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