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サイボウズはどのようにして「100人100通り」の働き方ができる会社になったか
【第13回】 2016年3月31日
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青野慶久

サイボウズの社長と
「ダイバーシティおじさん」はどこが違うのか
楠木建×青野慶久【1】

サイボウズが最も重視する「多様性」。これは、しばしば「ダイバーシティ」と訳され、他の企業においても目標として掲げられている言葉です。しかし、一橋大学大学院国際企業戦略研究科の楠木建教授は、キャリア相談への回答をまとめた新著『好きなようにしてください』において、「ダイバーシティおじさん」という表現を使い、その風潮に警鐘を鳴らしています。
サイボウズ・青野社長と楠木教授の初顔合わせとなった対談は、こうした「ダイバーシティ」をめぐるお二人の真意から始まりました。(構成:谷山宏典 撮影:疋田千里)

多くの会社は
“大人のダイバーシティ”になっている

楠木 青野さんの著書『チームのことだけ、考えた。』、拝読させていただきました。これまでにも組織の多様性をテーマにしたビジネス書は何冊も読んできましたが、その中で僕自身がもっとも納得のいく、素晴らしい内容でした。

青野 ありがとうございます。

楠木建(くすのき・けん)一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授。1964年東京生まれ。92年一橋大学大学院商学研究科博士課程修了。専攻は競争戦略。著書に最新作『好きなようにしてください』のほか、『ストーリーとしての競争戦略』『「好き嫌い」と経営』(ともに東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(プレジデント社)、『経営センスの論理』(新潮新書)などがある。

楠木『好きなようにしてください』にも書いたのですが、僕は何かにつけて「ダイバーシティ、ダイバーシティ」と言う「ダイバーシティおじさん」が大嫌いで(笑)。多様性にかぎらないんですけど、その時代、時代のかけ声ってありますよね。イノベーションとか、女性活躍とか、英語公用語化とか。それぞれに理由と意味はあるのですが、そのかけ声を声高に叫んでいる人には、実は大して何も考えていない輩が多いというのが、僕の持論です。

 ダイバーシティおじさんのダメなところを挙げると、まず「今の組織は一様(=多様性がない)で、だから多様性が必要だ」という発想が出発点になっていること。青野さんの本の中にも書かれていますが、いろんな人が集まって組織ができあがっている以上、多様性は本来あるはずのもので、それを受け入れる、つまりインクルージョンした結果、多様性のある組織になっていくのです。つまり、ダイバーシティおじさんは、前提からして間違っている。

 さらに、多様性を高めたあとの「統合」について何も考えていない。もしくは、自分が統合できる範囲でしか多様性を認めない、という傾向があります。

青野 統合しなければ組織にならないですし、多様性の範囲をかぎっている時点でもはやダイバーシティではないですよね。

楠木 当たり前ですけど、ある目的に向かってみんなで一緒に活動するから組織なのであって、その肝心の統合を抜きにしてダイバーシティというかけ声だけかければ、組織として成立しなくなってしまう。

 かつての御社を例にして言えば、事業部制やM&A戦略を採用していたころ、事業部ごとに意思決定をして進めていきましょう、M&Aをどんどんやって新しい市場にチャレンジしましょう、と多様性は極めて高かったわけです。でも、離職率も高かった。要するに当時のサイボウズは、多様だけれどもバラバラ。統合が効いていなかったと思うのです。

青野 そうですね。まったく統合ができていませんでした。

楠木 たしかに会社内にスキルや考え方、ライフスタイルが異なる多様な人がいた方が、多様な発想や力が生まれという面はある。しかし、多様な人々を統合するのは実はものすごく大変。だからダイバーシティおじさんは自分の手のひらにのる多様性しか認めない。これではむしろ組織を弱くすると思います。

 その点、今のサイボウズの場合、社員一人一人の多様性を受け入れたあと、多様な社員たちを目的に向かって統合するために、大きなものから小さなものまで本当にいろいろな工夫をされて、組織として成り立たせていることがよくわかります。

 だから、もし「うちの会社はダイバーシティに取り組んでいる」という人がいたら、「サイボウズぐらいやってから言ってください」と僕は声を大にしたい。もし御社ほどの取り組みができないのなら、むしろ多様性なんて求めずにほかの道を模索した方がいいと思います。そもそも多様性って絶対条件ではないですから。

青野慶久(あおの・よしひさ) 松下電工を経て、1997年にサイボウズを設立、2005年より代表取締役社長に就任。グループウエア事業を展開し、06年に東証1部に市場変更。給与体系や勤務体系、勤務場所などの選択肢が多様な、国内では先進的な人事制度を導入している。著書に『ちょいデキ!』(文春新書)、『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)がある。

青野 『好きなようにしてください』の「ダイバーシティおじさん」の項の相談者も、「上司や先輩の女性社員に魅力がなく、目標にならない」と言っていますが、「多様性=女性らしさを活かした働き方」みたいな発想にとらわれている印象を受けます。組織の多様性を考えるとき、男女の違いはそれほど重要な線引きではなく、重視すべきはやはり個人だと思うんです。

楠木 青野さんは「100人いれば100通りの人事制度を」と書かれていますけど、まさにその通り。ダイバーシティと言った瞬間に、本来であればそこまで徹底して追求しなければいけない。でも、ほとんどの会社では、もっと手前のところの安直なデモグラフィーやカテゴリー―たとえば、女性に手厚い職場にするとか、働く母親をサポートするとか――に注目した制度をつくって、「わが社のダイバーシティは深まった」と満足している。それは多様性に対する認識が甘いせいもあるし、もしくははじめからやる気がない確信犯の場合もあります。そもそも男女なんてたいした差はない。男と女、それぞれのカテゴリーの中の多様性のほうがよっぽど大きい。だから「ジョカツ」には統合のための努力がそれほど要らない。ダイバーシティおじさんたちのそうした確信犯的な姿勢を、僕は「大人のダイバーシティ」と揶揄しているんですけどね(笑)。

社員が共感する理想が
「統合」のメカニズムになる

青野 多様性のある組織を作るには、やはり「統合」のプロセスが重要ですよね。統合ができて、はじめてチームになる。

 では、「統合って何なんだ?」という話になるのですが、うちの副社長の山田(山田理氏)がよく言うのは、「サイボウズという会社は、3人の創業者が『こんなグループウェアを作りたい』というところから始まっている。それが組織ができる瞬間、チームが生まれる瞬間なんですよ」と。つまり、共通の目的のもとに人が集まってこそ、チームができる。共通の目的がなければ、いくら人が集まっても、その集団はチームではないのです。だから、統合された状態とは「組織の目的を社員全員が共有していること」とイコールだと言えるのではないでしょうか。

楠木 目的とは、本の中で書かれている「理想」と同じことですよね。人は理想に向かって動くと。

青野 そうです。もちろん理想にはいろいろあって、たとえば「年間で1兆円の売上を達成する」でもいいわけです。大事なのは、組織に属する全員がその理想に共感できるかどうか、です。

 松下電工に勤めていたとき、「売上目標○億円」と言われても、僕は「○億円の売上を上げても、自分の給料が上がるわけじゃないし……」と思ったりしていました。組織の目的に、個人である僕はまったく共感できていなかった。つまり、統合されていなかったのです。

 組織を統合するには、全社員が心から共感できる理想を設定できるかどうか。ポイントはそこだけだと思います。

楠木 共感できる理想や目的の存在が、組織を統合するメカニズムになる、と。

青野 ええ。僕の場合、はじめは「サイボウズをこんな会社にしたい」という理想の姿がいくつもあったんです。でも、そのすべてに対して全社員に共感してもらうことは現実的に不可能なので、会社の理想として掲げられるのは1つか、2つが限界だなと。そこで突き詰めていったときに「世界で一番使われるグループウェア・メーカーになる」という理想にたどり着きました。

 もちろん、その理想に共感できない人もいたので、そういう人は会社を離れていきました。それは仕方がないことです。ただ、理想を言い続けてきたことで、残っている社員はもちろん、その理想に共感してくれる人しか新しく入ってこないので、入社した時点で統合ができている状況を作れるようになってきたのです。

理想の原点は、
自分自身の「好き」なこと

楠木 「世界で一番使われるグループウェア・メーカーになる」というサイボウズの理想は、やはり青野さんご自身の好き嫌いが出発点になっているんですか?

青野 そうです。僕のバックボーンの1つが「ソフトウェアが好き」ということなんです。中学生のころに「ソフトウェアってすごいな」「ソフトウェアこそが世界を変えるんだ」と気づいて以来、その思いはずっと変わらないです。

 また、もうひとつのバックボーンは、自分が生まれ育った環境に深く関わっています。僕は愛媛のド田舎で生まれて、放任主義の親に育てられてきたので、「自分は好きなように生きてきたし、これからも好きなように生きていきたい」という思いが強くあります。だから、まわりの人に対しても「各々が好きなように生きればいい」と思っています。長時間働きたい人も時短勤務をしたい人も、成長したい人もしたくない人も、給料を増やしたい人も増やしたくない人も、みんな好きなようにしてください、と。ただ、みんなですごいソフトウェアを作って、面白いことをしたいとは思っているわけです。

 「すごいソフトウェアを作りたい」と「みんなに好きなように働いてもらいたい」。この2つの思いが今のサイボウズの柱になっているのですが、それは僕個人の好みにかなり密接に関係していることですね。

楠木 パソコン本体などのハードウェアはどうですか?

青野 もちろん好きですが、やはりソフトウェア寄りです。なぜソフトウェアかと言えば、人の考えをすべて表現できるのに、原価がかからないから。パソコンを1台作ろうと思えば、どうしたって原材料から仕入れないといけませんよね。でも、ソフトウェアは手元にパソコンさえあれば、いつでもどこでも作ることができる。そこに僕はレバレッジを感じるのです。

 実際、マイクロソフトのビル・ゲイツは、ウィンドウズであっという間に世界一の大富豪になりました。それ以前の世界の長者番付の常連といえば、石油利権や不動産、株式などを所有している既得権益者ばかりでしたが、既得権益者ではないビル・ゲイツはソフトウェア開発によって富豪の階段を一気に駆け上っていったんです。優れたソフトウェアは、世界のヒエラルキーをいとも容易く打ち破ることができる。その驚きが、僕の原点にはあるんです。

楠木 『チームのことだけ、考えた。』を読んで感心したのは、100人100通りの働き方を実現するために多彩かつきめ細やかな制度を整備しながら、それらすべてが「世界で一番使われるグループウェア・メーカーになる」「チームワークあふれる社会を創る」という御社の理想にちゃんとつながって、統合のメカニズムとして働いていることです。

 たとえば「部活動支援」も、「『福利厚生』という言葉で片づけたくない」と考えて、会社のミッションに貢献するために制度の目的を明確化していますよね。すべての制度が「世界一のグループウェア・メーカーになる」ための手段になっている。僕が「組織の多様性を語るなら、サイボウズぐらいまでやれ」と言うのは、こうした個々の制度の細部に至るまでの徹底したこだわりのことを言っているんです。
 

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青野慶久 

あおの・よしひさ 1971年生まれ。愛媛県今治市出身。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立。2005年4月代表取締役社長に就任(現任)。社内のワークスタイル変革を推進し離職率を6分の1に低減するとともに、3児の父として3度の育児休暇を取得。また2011年から事業のクラウド化を進め、2015年11月時点で有料契約社は12,000社を超える。総務省ワークスタイル変革プロジェクトの外部アドバイザーやCSAJ(一般社団法人コンピュータソフトウェア協会)の副会長を務める。著書に『ちょいデキ!』(文春新書)がある。


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