『週刊ダイヤモンド』4月9日号の第1特集は「吹き荒れるトランプ旋風!踊る米大統領選」。過激な発言で人気を集めるドナルド・トランプ氏に引っかき回されている米国大統領選の現状を、徹底した現場取材で明らかにしていきます。

「会場の皆さん、トランプフォース・ワンが近くの空港に到着しました!」

トランプ氏が使い分ける“扇動者と誠実な友”2つの顔Illustration by Tadayuki Sakakibara

 米国大統領専用機にちなんで、ドナルド・トランプ氏は自家用ジェット機をこう呼ぶ。さらに、空港からヘリコプターで移動。3月13日、フロリダ州の屋外の演説会場上空をヘリで低空旋回すると、会場には大統領専用機を舞台とした映画「エアフォース・ワン」のテーマ曲が流れ、聴衆は大きな歓声を上げた。

 映画、というよりは漫画じみた演出が笑いを誘うが、笑えない現実もある。

 本人が到着する前に演説した女性は、10歳の息子が不法移民に殺害された悲しみを切々と訴えた後、こう金切り声を上げた。「(当時、共和党の候補者争いをしていた)マルコ・ルビオ氏も同じ目に遭えば、彼の幸せな人生は失われることでしょう」──。聴衆はここでも、熱狂の雄たけびを上げた。

 トランプ氏を最有力候補に押し上げたのは、主に国民の経済的な不満、そして怒りだ。米国では、富を一部の富裕層が占有し、白人の低学歴男性は職に就きづらい苦境にある。

 その不満は、製造拠点を海外に移す大企業、貿易相手の中国やメキシコ、日本、そして、仕事を求めてメキシコや中南米から流れ込む不法移民に向けられる。イスラム過激派によるテロへの恐怖や怒りが、それに輪を掛ける。こうした感情を大胆に代弁するのが、まさにトランプ氏なのだ。

 前日の12日、所変わってオハイオ州クリーブランド。トランプ氏の演説会場では、「ISは爆弾で地獄に落ちろ」「ヒラリーは牢獄の中へ」など、物騒な言葉が書かれたバッジが売られていた。「各国との貿易、労働協定には、みんなもウンザリだろう?」「海外で製造された製品に35%の関税をかけてやる!」。トランプ氏の激しく下品な演説に、聴衆は大盛況。

 民主党のバーニー・サンダース候補の支持者が抗議のやじを飛ばすと、トランプ氏は「プロテスター(抗議者)をつまみ出せ!」と叫ぶ。トランプ支持者ともみ合いになり、警察官が仲裁に入った。

「ファンタスティックだった。今まで参加した政治イベントの中で、最高だね」。白人の大工ジョン・フィリップさん(46歳)は演説後、大いに留飲を下げていた。景気が落ち込み、仕事を十分に受注できないのだという。