企業の成長発展に欠かせない
「長たる者の8の資質」

 私は、企業が成長発展していくためには、トップから中堅幹部に至るまで、さらには全社員がすばらしいフィロソフィをもって、それを実践していけるような風土を社内につくることがたいへん大事だろうと思っています。やはり、中に住む中堅幹部の方々が立派でなければ会社は発展していきませんし、下手をしますと倒産してしまいかねません。

 実は今から三〇年ほど前の一九七五年、私が必死で京セラを経営していた四〇代の頃、リーダーにはこういう資質をもっていてほしいと思ったことを、「長たる者の資質」という八項目にまとめました。社内向けに書いたものでありますだけに、稚拙な文章になっておりますが、ご紹介します。

 また、それをまとめてからしばらく後、長たる者の資質をもった中堅幹部が果たすべき役割を、「リーダーが果たすべき十の役割」としてまとめました。そちらも続けて、ご説明しようと思います。まず、「長たる者の資質」です。リーダーたる者の資質とはどんなもので成り立つか。

 第一に、自分の担当した部門に対して夢、理想をもった人でなければなりません。平和堂におかれましても、店全体の長である店長をはじめ、店の中にはいろいろな役割をもった部門があり、それぞれに長がおられます。長は自分の担当した部門に対して夢、理想をもった人でなければなりません。

「おまえさん、この部門の責任者になってくれ」と言われて、漠然とその部門を率いるのではなく、担当した部門に対して自分なりに夢を描き、理想を描ける人でなければならないのです。

 二番目は、担当した部門に対して自分がこうしたい、ああしたいと抱いた夢、理想を実現させるための強い信念、勇気、情熱をもった人でなければいけません。

 三番目は、自分の担当する職務を達成するために、必要なそれぞれの職務を分解し、まとめ上げられる人です。スーパーのことはよくわからないのですが、例えば、スーパーの中で鮮魚を担当する部門では、生ものから干物からいろいろなものを扱うだろうと思います。自分が担当する部門をすばらしい状態にしていくためにはどういうことが必要なのか。鮮魚部門全体の職務を全部分解し、それをまとめ上げられる人でなければなりません。

 四番目は、自分の担当する職務を達成するために細心の神経をもつ人、つまり、非常に神経の細かい人です。私はそういう人を「ビビる人」と呼んでいます。豪放で大胆な人より、小心者でビビるくらいの人のほうが長にふさわしいと、私は思っています。

 五番目は、自分が担当する職務全体を達成することは自分一人ではできませんから、自分の代わりになってその職務を遂行できる人、つまり自分の分身を選んで、その人を職務別に配置することができる人でなければならないと思います。自分と同じような考え方をもち、自分と同じように責任感をもち、自分と同じように一生懸命仕事に取り組んでくれる人を選んで、その人を分解した職務別に配置することができなければなりません。

 六番目は、自分が仕事を任せた分身が信頼できるかどうかを常に確認する人でなければなりません。部下に任せっ放しにして、そのために失敗をされてしまったのでは困ります。任せた人が信頼するに値する人かどうかを、常に確認する。それも一回ではありません。あの人は立派な人間だからというので、一度信用したら一年も二年もずっと信用しっ放しではいけないのです。信頼に値する部下かどうかを常に確認していく必要があります。

 七番目として、長になる人は、部下から信頼をされる人でなければいけません。部下を、信頼に値するかどうかを確認する以前に、これは長である自分自身が部下の信頼に値するような人物であるかどうかが問われているのです。

 八番目は、自分が担当する命題に対して常にチャレンジをしていく人です。新しい命題を自分自身で見つけて、常に果敢に挑戦をしていくような積極的な人でなければなりません。

 この八つの資質をもつ人が、長になる資格をもった人だということを、今から三十数年前、私が四〇代初めの頃、社内で話しました。

 当時、私はまだ若く、朝から晩まで必死で働いていました。猫の手も借りたいぐらい忙しく、自分と同じようなことを考えてくれて、信頼できるすばらしい部下、分身がいてくれ、その人たちがそれぞれの部門の長となって会社を守ってくれたらいいなと思っていました。ですから、こういう資質をもった部下が一人でも多く欲しいと思い、幹部社員を集めて、たぶんうわ言みたいに「こういう資質を身につけてほしい」と私は繰り返していたと思います。

 私がこの「長たる者の資質」について、本日、平和堂幹部の皆さんにご紹介しましたのは、おそらく社長も、ここまで会社の規模が大きくなり組織が大きくなってくれば、猫の手も借りたいぐらいに考えていらっしゃるだろうと思ったからです。

 社長一人では決して末端にまで目が届きません。自分の分身として企業を守ってくれる、すばらしい中堅幹部が必要です。その人たちには、この八つの資質をもっていてもらわなければならないのです。

『稲盛和夫経営講演選集 第5巻 リーダーのあるべき姿』、「企業が発展し続けるために」より抜粋