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『週刊ダイヤモンド』特別レポート

映画で理解する米国大統領選挙の本質

──「週刊ダイヤモンド」4月9日号より特別公開

藤原帰一 [東京大学法学政治学研究科教授]
2016年4月6日
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アメリカには大統領や大統領選挙を題材とした映画が多い。映画はフィクションだが、そこには政治や選挙の本質が含まれている。映画を見れば、大統領選がもっと理解できるようになる。「週刊ダイヤモンド」4月9日号特集「吹き荒れるトランプ旋風!踊る米大統領選」より関連記事を特別公開します。

 アメリカの選挙は、有権者に夢を伝える競争である。しかし候補者が訴える夢のほとんどは、実現する可能性がないものだ。おかげで、事実に基づいた報道をフォローしても、実体はよく分からない。逆に、事実とは無縁の虚構にすぎない映画の方が、選挙の現実を知る上で役に立つ。映画を通してアメリカの選挙を考えてみよう。

 まず選挙コンサルタントが重要だ。アメリカの選挙は、候補者個人の考えや資質ではなく、それをどのように飾り立て、振り付けるかが重要である。有権者の受け入れやすいように候補者の政策を組み立て、この人は信用できるというビジュアルなイメージをつくり出し、その陰では対立候補が人でなしだという噂を振りまく。これら全ての役割を担うのが選挙コンサルタントである。

 選挙コンサルタントに焦点を当てた映画としては、古いもので「候補者ビル・マッケイ」(1972年)が挙げられるだろう。ロバート・レッドフォード演じる上院議員候補マッケイが選挙参謀の指図によって容姿を整え、政策を変え、有力候補に変身する。マッケイは選挙に勝つが、自分は誰だか分からなくなってしまうというお話だ。

 リチャード・ギアが選挙コンサルタントを演じた「キングの報酬」(86年)では、さらに話がエスカレートして、有力なコンサルタントさえいればどんなに弱い候補でも当選するかのようだ。大統領選挙の裏方を追いかけた「スーパー・チューズデー―正義を売った日」(2011年)は、選挙コンサルタントものとも呼ぶべき長い伝統の継承者であるといってよい。

 この視点から見ると、08年大統領選挙のバラク・オバマ、あるいは今回の大統領選挙の共和党候補であったマルコ・ルビオがよく分かる。隙のない衣装やキメ台詞で塗り固めたような演説は、すべてが有権者向けの振り付けだといってよい。

 しかし、これでは、ドナルド・トランプは分からない。選挙コンサルタントの振り付けを無視するかのように暴言を繰り返し、それによって支持を固めているからである。

 だが映画では、トランプのような「本音の政治家」が珍しくない。49年の「オール・ザ・キングスメン」、さらにそれをリメークした06年の同名作品では、政治家の言葉とは思えない口汚い罵りによって、ルイジアナ州知事に当選するウィリー・スタークが登場する。ウォーレン・ビーティ主演の「ブルワース」では、黒人のラップに乗せて政界のタブーを平然と口にする政治家が圧倒的な人気を獲得する。どれを見ても、トランプの先祖と呼びたいような存在だ。

 選挙コンサルタントのつくり出した衛生無害な候補と、野卑な言動によって世論を左右する暴漢は、まるで正反対のように見えるが、実はそうではない。世論に見放されるのを恐れて政治家が衛生無害になればなるほど、野卑な言動に魅力が生まれるわけで、実はこの両極ともに、大衆社会における民主政治の標本だからである。

 「オール・ザ・キングスメン」のモデルは、ヒューイ・ロングというポピュリストの知事だった。トランプが大統領になったとき、アメリカは一体どうなってしまうのか、「オール・ザ・キングスメン」が不気味な示唆を与えてくれるだろう。

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2016年10月1日号 定価710円(税込)

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