復習

東銀座、歌舞伎座の上にある真っ白なオフィス。
東京のビル群を見下ろす会議室に、チェックのシャツを着た業界屈指のトリックスターが現れた。

「僕は経営はやっていない」「人間に主体性なんかない」「世の中で勝とうと思ったら不戦勝が一番いい」「優柔不断は賢さの象徴」。

対談開始直後から川上量生節が炸裂する。謙遜でも虚栄でもない。それが真実であり、合理だと。

「着メロ」「ニコニコ動画」でヒットを連発したかと思えば、ジブリのプロデューサー見習いとして働き出し、KADOKAWAと突如経営統合。
ITビジネスのトップランナーはいつの間にか宮崎駿と庵野秀明の傍にいた。

「ちょっと変わった人や、欠点がある人がいい」

理系として徹底的に合理でありながら、非合理に突き進む。その原動力は「人間」に対する飽くなき興味なのだろう。

会社経営も、ヒットの法則も、アメリカ人の考えていることも「すべてわかった」と言い切る彼が、いまだに興味を持ち得る対象は人間だけなのかもしれない。

無駄話が一切ない2時間だった。
けれどもきっとすべての正解は「人間」の中にしかないのだと、改めて思わされた2時間だった。

川上量生(かわかみ・のぶお)
カドカワ 代表取締役社長/ドワンゴ 代表取締役会長
1968年愛媛県生まれ。91年京都大学工学部卒業。ソフトウェア会社勤務を経て、97年にパソコン通信を使ったゲーム対戦システムの開発会社としてドワンゴを設立。その後、携帯電話向けの着メロ事業で業績を伸ばし、2003年に東証マザーズ、04年に東証一部に上場。06年にユーザーによる動画投稿サイト「ニコニコ動画」(以下ニコ動)を開始。10年に角川グループ(当時)と包括的業務提携、ニコ動に角川の公式チャンネルを設置、電子書籍でも連携。一方で、11年よりスタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーに“見習い”として師事。14年にはKADOKAWAと経営統合。15年末時点、ニコ動の登録会員数は約5321万人(月間のユニークユーザーは約871万人、有料ユーザーは約254万人)。著書に『鈴木さんにも分かるネットの未来』(岩波新書)ほか。
川村元気(かわむら・げんき)
1979年横浜生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、東宝にて『電車男』『告白』『悪人』『モテキ』『おおかみこどもの雨と雪』『寄生獣』『バケモノの子』『バクマン。』などの映画を製作。2010年米The Hollywood Reporter誌の「Next Generation Asia」に選出され、翌11年には優れた映画製作者に贈られる「藤本賞」を史上最年少で受賞。12年には初小説『世界から猫が消えたなら』を発表。同書は本屋大賞へのノミネートを受け、100万部突破の大ベストセラーとなり、佐藤健、宮崎あおい出演で映画化された。13年には絵本『ティニー ふうせんいぬのものがたり』を発表し、同作はNHKでアニメ化され現在放送中。14年には絵本『ムーム』を発表。同作は『The Dam Keeper』で米アカデミー賞にノミネートされた、Robert Kondo&Dice Tsutsumi監督によりアニメ映画化された。同年、山田洋次・沢木耕太郎・杉本博司・倉本聰・秋元康・宮崎駿・糸井重里・篠山紀信・谷川俊太郎・鈴木敏夫・横尾忠則・坂本龍一ら12人との仕事の対話集『仕事。』が大きな反響を呼ぶ。一方で、BRUTUS誌に連載された小説第2作『億男』を発表。同作は2作連続の本屋大賞ノミネートを受け、ベストセラーとなった。近著に、ハリウッドの巨匠たちとの空想企画会議を収録した『超企画会議』などがある。