復習

舛田淳との出会いは、2012年。僕の初小説『世界から猫が消えたなら』を読んで「面白かったから」という理由だけでLINEで連載することを決めてくれた。上を下への会議もなく、即決だったのを、いまだに思い出す。

「フェイスブックとツイッターがなければLINEは生まれなかった」

一人が多くの人とつながることが正義とされていたネットの中で、太古から続く1対1のコミュニケーションを提案した。

「サイエンスだけでなくアートも両方をかき回して考えられる脳が必要」

無料通話、既読表示、スタンプ。人間の生理を、理系脳と文系脳をリレーションして見事に理解し、直感的な会話を再現したインターフェースにより、世界中の多くの人にとって欠かすことのできないツールとなった。たった10人強のメンバーで始めた「ゲリラ戦」は、着実に海外へと拡大している。

「もともとすべてに関してこうじゃなきゃいけないっていうのもないし、ルールもポリシーも進化するべき。流れが来たときにどうあるかを大事にしたい」

とりとめなく見えるその指針も、やわらかさの証し。「朝令暮改、上等」と語る舛田淳の“やわらかな野心”が時代に合わせてどうLINEを変えていくのか?
アップル、グーグル、フェイスブックに肩を並べる日がやがて来るのか?
その動向からますます目が離せない。
 

舛田 淳(ますだ・じゅん)
LINE 取締役 CSMO
1977年神奈川県生まれ。2008年にNAVER Japanに入社、事業戦略室長/チーフストラテジストに就任。12年に傘下であったNHN Japanグループ3社の経営統合に伴い、NHN JapanのLINE、NAVER、livedoorの事業戦略・マーケティング責任者として執行役員/CSMO(Chief Strategy & Marketing Offi cer)に就任。13年にNHN JapanがLINEに商号変更。14年にLINE上級執行役員 CSMOに就任。15年4月より現職。
 川村元気(かわむら・げんき)
1979年横浜生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、東宝にて『電車男』『告白』『悪人』『モテキ』『おおかみこどもの雨と雪』『寄生獣』『バケモノの子』『バクマン。』などの映画を製作。2010年米The Hollywood Reporter誌の「Next Generation Asia」に選出され、翌11年には優れた映画製作者に贈られる「藤本賞」を史上最年少で受賞。12年には初小説『世界から猫が消えたなら』を発表。同書は本屋大賞へのノミネートを受け、100万部突破の大ベストセラーとなり、佐藤健、宮﨑あおい出演で映画化された。13年には絵本『ティニー ふうせんいぬのものがたり』を発表し、同作はNHKでアニメ化され現在放送中。14年には絵本『ムーム』を発表。同作は『The Dam Keeper』で米アカデミー賞にノミネートされた、Robert Kondo&Dice Tsutsumi監督によりアニメ映画化された。同年、山田洋次・沢木耕太郎・杉本博司・倉本聰・秋元康・宮崎駿・糸井重里・篠山紀信・谷川俊太郎・鈴木敏夫・横尾忠則・坂本龍一ら12人との仕事の対話集『仕事。』が大きな反響を呼ぶ。一方で、BRUTUS誌に連載された小説第2作『億男』を発表。同作は2作連続の本屋大賞ノミネートを受け、ベストセラーとなった。近著に、ハリウッドの巨匠たちとの空想企画会議を収録した『超企画会議』などがある。