マスコミから取材を受けた人が、取材内容の報じられ方について、ある種の“期待”を抱くことはよくあることだろう。往々にして期待は取材側の言動によってもたらされるものだ。しかしそうした期待は報われないどころか、裏切られた場合には法的保護の対象にもならない――。そんな取材される側には極めて厳しい判決がつい先ごろ、最高裁によって下された。「従軍慰安婦問題」の報道を巡るNHKの逆転勝訴判決である。

 問題となった番組は、NHKが2001年1月に放送した「ETV2001 問われる戦時性暴力」。この番組では、市民団体「『戦争と女性への暴力』日本ネットワーク」(バウネット)が開催した従軍慰安婦に関する模擬法廷の模様が放映されたが、国と昭和天皇を有罪とした判決部分などが大幅にカットされたことが問題となった。

 バウネット側は、「法廷の様子をありのままに伝える」という約束をNHK側が一方的に反故にしたとして、いわゆる期待権(取材される側が取材した側の言動によって報道内容に期待を抱く権利)侵害を理由に、NHK等3社に損害賠償を求めていた。

 1審・東京地裁判決はNHKへの賠償責任は認めず、制作会社のみに賠償を命令した。ところが、控訴審途中の2005年1月に、朝日新聞が、安倍晋三官房副長官(当時)ら2人の与党政治家からの「政治的圧力があったことで番組内容が改編された」と報じたために、政府を巻き込む大問題に発展した。この朝日新聞の報道の影響を受けたのか、2006年1月の2審判決は、NHK側が政治家の意図を忖度して番組を改編したとして、期待権の侵害を認め、NHKを含む3社に賠償を命じた。だが今回下された最高裁判決は、改めてその2審判決をひっくり返したものになった。

 各紙報道によれば、最高裁第1小法廷の横尾和子裁判長は個別意見で「取材を受けた側が内心で抱いた期待権を認めれば、取材活動の萎縮を招き、報道の自由の制約につながる」と指摘。「取材対象者の抱く期待、信頼を法的保護に値するものと認める余地はない」とバウネット側の主張を退けた。