木暮 ちなみに僕は、新入社員向けの講演会で『カイジ』の話をするんです。先日も500人の前でお話させていただきました。

岩瀬 反応はいかがでしたか?

木暮 めちゃくちゃビシッとしますね。

岩瀬 心に響くポイントはどこでしょうか。

木暮脇を固めて、世間から見られていることを自覚しろということですね。学生と社会人は違うからな、と。僕の入社1年目の苦い実体験を交え、現実的な話をさせてもらいました。

不遇な状況に耐え、自分で何かを
見つけないと道は開けない

入社1年目の「怒られ侍」が、2年目以後急成長した理由/経済ジャーナリスト・木暮太一<前編>木暮太一 経済入門作家、経済ジャーナリスト、出版社経営者。1977年生まれ。NHK「ニッポンのジレンマ」、フジテレビ「とくダネ!」、「ネプリーグ」など出演。『今までで一番やさしい経済の教科書』(ダイヤモンド社)、『カイジ「命より重い!」お金の話』(サンマーク社)、『僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?』(星海社新書)、『学校で教えてくれない「分かりやすい説明」のルール』など、著書36冊、累計115万部。

岩瀬 入社1年目の苦い体験といいますと?

木暮 まず、学生時代に天狗になっていたんですよ。

岩瀬 ああ、木暮さんといえば、『TK論』ですもんね。人生初のベストセラーといっていいですよね?(編集注:大学在学中に木暮さんが執筆したテスト対策本。イニシャルをとって「TK論」とした。前編後編各500円で販売し、5年間で累計5万部を売り上げたヒット作)

木暮 はい。当時、『TK論』のおかげで単位取れましたという人が続出しまして、慶應の経済学部や商学部で知らない人はいなかったほどです。

岩瀬 その勢いのまま、社会人1年目を迎えてしまったと。

木暮 学生と社会人はまったく違いますからね。富士フイルムという会社に入社しましたが、入社1年目の僕は仕事ができなかったんです。

岩瀬 当時の配属先はどこですか。

木暮 企画部です。感光材料(フイルム)の企画や本部の役割を果たす部署でした。その部署には40名程度いました。

岩瀬 ということは、学生時代の実績を買われたんじゃないですか。

木暮 多少あったかもしれませんが、実際は全然うまくいかず、部署内で「怒られ侍」と呼ばれていました。

岩瀬 「怒られ侍」…それは意外ですね。

木暮 それと、直属の上司とそりが合わなかったんです。「怒ることが情熱だ! 仕事だ!」みたいなタイプで、背後から「お前それでいいんか」ってプレッシャーをかけてくるんですよ。

岩瀬 うわわ…。

木暮 そんなこと言われたら何か変えないといけないと、あせるじゃないですか。するとそれが裏目に出て、また上司に怒られる。入社6ヵ月でうつ状態になりました。その後半年間、「前日の記憶がない」という状態が続きました。

岩瀬 今でいうパワハラですね。

木暮 ただ幸いなことに、当時はうつという言葉が存在しなかったので自覚症状はありませんでした。会社を休むという選択がなく毎日出社し続けた結果、あるときフッとタスクが軽くなった瞬間があって。心が軽くなると、一瞬で半年間の記憶を取り戻しました。

岩瀬 当時の自分になんて声をかけてあげますか? 我慢しなさいなのか、辞めちゃいなさいなのか、何かを変えなさいと言うか。

木暮 うーん…我慢ですかね。結局自分で何かを身につけないことには、その先が開けないと思うんです。受け身でずっと我慢しろというのではなく、防御しながら何かを見つけておく努力をしなさいと、きっと言います。

岩瀬 見つけるというのは、自分が抱える仕事の中でという意味ですか?

木暮 そうですね。