経営×ソーシャル
ソーシャル グローバルトレンド
【第3回】 2016年5月10日
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武邑光裕 [クオン株式会社 ベルリン支局長]

旅行代理店が街から消える?トラベル4.0の衝撃

 世界の観光・旅行業界に劇的な変化の波が押し寄せています。それは、宿泊業界はもとより、航空予約、観光業全域におよんでいます。その革新の源流は、ソーシャルメディアであり、スマートフォンのアプリです。欧州で生まれ、約2世紀の歴史を持つ旅行代理店も、街から消えていくかもしれません。

ソーシャル×共有経済

Airbnbのホームページ画面

 米国ベースの宿泊プロバイダーであるAirbnbの急成長は、世界に「共有経済(シェアエコノミー)」の可能性を実感させただけでなく、既存の宿泊業界に客室稼働率の減少という現実を突きつけました。Airbnbは、ホスト(家主)と旅行者を接続し、旅行者がホストに支払う賃料から手数料収入を得る売買プラットフォームです。伝統的なホテル業とは異なり、Airbnbは在庫を持たず、ホストが提供する部屋と旅行者を増加させ、マッチングさせることで規模を拡大しています(※1)

 Airbnbホストを支援する会社Guestyは、世界各地のホスト向けに、Airbnbコミュニティを成功に導くための様々なサービスや技術を提供します。その中には、旅行者がホストから部屋のカギを受け取る手間を省く電子ドアロック(※2)、部屋の省エネ管理、部屋の清掃システムの開発など、既存のホテル業態がもつインフラ部門のように、世界各地のAirbnbホストの品質向上を支えています。このビジネスが、地域に新たな雇用を生み出し、地域社会への貢献にもつながるという事例も、Airbnbの好循環を支えています。

 共有経済のもうひとつの一大ビジネスは、世界の各都市で新種のモビリティとして急成長したUberです。一般のドライバーと客(地元市民から旅行者まで)がクルマをシェア(共有)するという名目で配車を実現する「ライドシェア(相乗り)」は、世界各地のタクシー業界から反発を受け、法的な課題とも直面しています。しかし、今やさまざまな共有経済が世界の消費者から支持されている中、旅行業界もその劇的な変化の渦中から対応に迫られています。

(※1)Airbnbは、欧州で古くからあるパラホテレリー(Parahotellerie:非ホテル経営体)に隣接している。Airbnbは、世界192ヵ国、34000の都市で200万室の情報を提供し、通算ゲスト数は6000万人であるが、Airbnb自らが所有し、販売する物件はない。

(※2)https://www.guesty.com/academy/electronic-smart-locks-for-your-airbnb/

ソーシャル×旅行予約

Hotel Tonightのベルリンのホテル。4つ星ホテルの「今夜の価格」は1万円を切る値段で提供されている

TripAdvisorBooking.comといった大手OTA (Online Travel Agent=オンライン旅行代理業)は、今や世界の個人旅行者のための一大観光交流プラットフォームです。旅行者の個人レビューが、旅行の予約動機に大きな影響を与えています(※3)。OTAは宿泊や航空予約をめぐる売り手と顧客をつなぐ仲介業ですが、同時に膨大なユーザー生成コンテントに支えられた旅行全般の情報サイトなのです。当然、Google Mapも、世界のホテル予約をはじめ、世界の旅行者の観光交流に必須なソーシャルメディアです。

 OTAの影響下、旅行商品の価格比較や最低価格保証が一般化する中、ホテルや航空料金のレートパリティ(価格均衡化)も加速しています。

 2010年の創業以来、世界36ヵ国、北米、中南米、欧州で、1900以上の都市の1万5000を超えるホテルをパートナーとし、1100万人がダウンロードしたHotel Tonightは、旅行先の「今夜泊まるホテル」に焦点を当てた宿泊仲介アプリです。Hotel Tonightは、レートパリティが加速する中、「ラスト・ミニッツ・ディール」で顧客を刺激します。宿泊当日に、高級ホテルの通常価格がどれだけ安く提供されるのか?その「お値打ち感」が、顧客の心を捉えているのでしょう。

 いずれにせよ、共有経済のアクターやスマホアプリで新たなサービスを開拓しているソーシャル・ベンチャーにとって、ホテルや既存の旅行業態を破壊することは本意ではなく、ともにWinWinの関係を実現することが、互いを成長させるビジネスチャンスでもあるのです。

(※3)2015年のデロイトUKの調査によれば、旅行者の49パーセントは、彼らの旅行予約の決定にレビューサイトが最も影響力を持っていることを明らかにしたhttp://www2.deloitte.com/content/dam/Deloitte/uk/Documents/consumer-business/deloitte-uk-travel-consumer-2015.pdf)。

武邑光裕(たけむら・みつひろ)[クオン株式会社 ベルリン支局長]

メディア美学者。武邑塾主幹。日本大学芸術学部、京都造形芸術大学情報デザイン科、同大メディア美学研究センター所長、東京大学大学院新領域創成科学研究科、札幌市立大学デザイン学部(メディアデザイン)で教授職を歴任。2015年より現職。専門はメディア美学、デジタル・アーカイヴ情報学、創造産業論、ソーシャルメディアデザイン。著書『記憶のゆくたて デジタル・アーカイヴの文化経済』(東京大学出版会)で第19回電気通信普及財団テレコム社会科学賞を受賞。2015年よりクオン株式会社ベルリン支局長。2016年、取締役就任。


ソーシャル グローバルトレンド

ヨーロッパ各国から様々なクリエイターやテクノロジストが集まる街、ドイツ・ベルリン。この街を訪れると、自ずとソーシャルビジネスのグローバルトレンドを垣間見ることができます。本連載では、ベルリンに在住する著者が現地で見た、ソーシャルビジネスの最前線を紹介します。

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