たとえば、100万円をうまく投資できないaさんは、ひとまず銀行にお金を預ける。この段階では100万円は年250円のキャッシュフローをもたらすにすぎない。

しかし、いったん銀行に預けられた100万円のうち90万円は、資金を必要としているbさんの融資に回される。融資を受けたbさんは、代金90万円をcさんに支払う。cさんは受け取った代金90万円を銀行に預ける。こうして銀行にはaさんの預金100万円とcさんの預金90万円の計190万円があることになる。

本来100万円しかないはずの預金が190万円に膨らんでいるのは不思議な感じがするが、銀行はこうして預入と貸出を通じて、お金(預金通貨)を膨らませる機能を持っている。この働きを信用創造という。日本の場合、僕たちが銀行に預けた預金は、約10倍の金額に膨らんで流通していると言われている。

預金をしても個人へのキャッシュフローは微々たるものである。しかし、預金されたお金が「稼ぐ力」を持った人・企業に貸し出されることで、経済全体として見るとキャッシュフローが増大する結果になっている。つまり、あなたの預金も誰かの価値創造に一役買っているのである。

タンス預金をしている限り、こうした効果は絶対に期待できない。つまり、文字どおり「誰のためにもならないお金」になってしまうのである。

とはいえ、これはある種の理想論であり、日本の金融機関が本当に社会全体のキャッシュフローの創造に貢献できているかというと、やや疑問が残らざるを得ない。

たとえば、上場したばかりのゆうちょ銀行は、運用資産205.5兆(2016年3月末現在)のうち、40.8%を国債購入に充てており、貸出にはたった1.2%しか回っていない。つまり、キャッシュフローを生む力のある企業に融資せずに、4割を国に貸し出しているのである。

国は国債で集めた資金で公共事業を行ったりしているが、それらの資金が将来キャッシュフローを生む投資に使われているかというと、やはり甚だ疑わしいと言わざるを得ない。