「リスク×アマノジャク度」の指標としての「β」

以上がノーベル賞経済学者ウィリアム・シャープの考え出したCAPM理論である。

この理論が画期的だったのは、個別株式のリスクをそれ自体のリスク(ボラティリティ)の高さだけで見積もろうとする発想を捨てた点だ。

そこで彼が導入したのが、各個別株式がマーケット・ポートフォリオに対してどの程度動くかを示した「β」(シャープのβ値)という指標である。

βの考え方はシンプルだ。マーケット・ポートフォリオが1%上昇したときに、同じく1%上昇する個別銘柄は「β=1」である。1%動いたときに、0.5%動けば「β=0.5」、2%動けば「β=2」である。要するに、マーケット・ポートフォリオの変動に対して相対的にどれくらい変動するのかを示しているわけだ。

先ほどの株価のグラフを思い出してみてほしい。日経225とほぼ同じ動きをしていた株式M、これは実を言うと、トヨタ自動車の株価をもとにつくったデータだ。この株式のβは1.1、つまり、日経225が1%上昇するときには、トヨタの株が1.1%上昇することは前もって予想できるのである。

一方、日経225と相反する動きをしていた株式Nのβは0.5である。これは日経225が1%動くときに、株式Nは0.5%しか動かないということを意味している。なお、βを求める計算式は次のとおりだ。

β=MPと個別株式の相関係数×(個別株式のリスク÷MPのリスク)

注目したいのは、個別株式のβは単にボラティリティの大きさで決まるわけではなく、個別株式とマーケット・ポートフォリオ(MP)の「相関係数」も加味されているという点だ。

株式Nのケースを思い出してほしい。株式Nの変動は、日経225に比べて3倍以上大きかったが、日経225との相関係数が低いので、結果的にβが低くなっていた。マーケット・ポートフォリオをすでに保有している投資家から見れば、トヨタ自動車(株式M)よりも変動の激しい株式Nのほうが、結果としてはリスクが低いということになるのだ。

各個別株式のβは過去のデータから計算され、よほどのことがない限り一定である。つまりシャープは、すべての個別株式にはそれぞれ決まったβが背番号のようにつけられており、そのβの大きさによって個別株式のリターンが決まると考えたわけだ。

もちろん、日々の値動きが必ずそのとおりになるとは限らないが、多少の誤差を許容すれば、βは信頼に足る背番号だということが実務の世界でも確認されている。