世界金融危機の後、三井物産は大手商社の中でいち早く積極投資を再開した。非資源分野をテコ入れし、部門の壁を壊して人事を融合させ、アジアへの戦力シフトを急ぐ──飯島彰己社長は立て続けに改革の矢を放ち、極度の資源分野依存体質からの脱却を図る。その新たな成長戦略で、はるか先を走る首位・三菱商事を追撃する。(「週刊ダイヤモンド」編集部 山口圭介)

 7月20日午前、東京・大手町の三井物産本社で開かれた経営会議の席上、飯島彰己社長はじめ代表権を持つ最高幹部は、アジア地域の事業体制拡充を図るために、大型の人事異動を断行することを決めた。

 およそ100人もの社員が新たにインフラ事業などのアジア戦略にかかわることになる。飯島社長は、新興国とりわけアジアシフトを急ぐ。それは、なぜか──。

 経営会議からさかのぼること4日前、三菱商事は、「3年間で1兆円超をエネルギー・金属資源分野に投資する」と発表した。大手各社が揃って「非資源」の強化へと動くなか、業界最大手が打ち出した中期経営計画は、全投資額のじつに半分を資源分野に振り向けるという大胆不敵なものだった。

「三菱商事が投資に慎重なあいだに、積極投資によって首位奪還の土台をつくる腹づもりだった飯島社長は、心中穏やかではないはずだ」。三井物産がナンバーワン商社だった頃に入社したある幹部は、トップの心をそう読み解いた。

「対外的に表明しているわけではないが、飯島社長は社内で“三菱越え”への野心を公言して憚らない」と別の経営幹部は明かす。

 2000年代前半に不祥事が相次いだことをきっかけに、前社長時代に進められた「良い会社」志向で、社内がぬるま湯状態に陥りがちであることに危機意識を強く抱いている、という指摘もある。

 三井物産は5月、2年で1兆2000億円という過去最大級の投資方針を打ち出した。資源分野への投資は全体の3分の1に抑え、非資源分野の強化を喫緊の課題として掲げた。3年間で総額2兆~2兆5000億円を投資する三菱商事と比較すると、規模では見劣りする。飯島社長には、いかなる戦略があるのか。

 非資源分野のテコ入れを急ぐ背景には、資源分野への極端な利益依存体質がある。

 エネルギー部門と金属資源部門の2大資源分野が稼ぎ頭である点は、他の総合商社にも共通している。しかし上のグラフからも一目瞭然だが、丸紅と住友商事は純利益に占める比率が5割を切っているのに対し、三井物産のそれは7割で突出している。

 過度の資源依存は、市況によって業績の振れ幅が極端に拡大するリスクにさらされる。資源分野の割合が100%を超える年すらあり、三井物産は「資源の専門商社」と揶揄されていた。