人々の琴線に触れる“イベント”が
政治改革の原動力になる

 どの選挙改革案もなるほどと思いますが、これを導入するのに、そもそも政治的な抵抗が大きすぎて改革できないということはないですか。

年金・医療費を親子間で相互扶助する抜本策など<br />抜本改革は“イベント“効果を機に前進させる<br />【翁邦雄×井堀利宏 対談後編】「何らかのイベントが契機になる」と翁教授

 何が突破口になるのか? 私なりに考えたのは、何らかのイベントが契機になるのではないか、と。財政問題にしても、ギリシャに限らず大きな危機などのショックがないと改革は進みません。

 でも、本当に「危機」が不可欠かと言えば、必ずしもそうではない。国民の心の琴線に触れる出来事であればいいのだろうと思います。最近でいえばひとりの匿名の母親による「保育園落ちた 日本死ね!」というブログをきっかけに待機児童問題への取組が急にクローズアップされましたよね。とりあえず、そうしたなんらかの「危機やイベント」と改革の動きをうまく連動させていくことでしか、改革は実現しないと思います。

 井堀さんが提案した年金・医療制度改革や選挙制度改革などについて私は少し意地悪く「現実的じゃない」等と言っていますが(笑)、本音では必ずしも不可能ではないと思っています。何らかのきっかけをうまく捉えて、世論を喚起できれば、改革は可能でしょう。

井堀 そうですよね。選挙区の定数不均衡問題はいつも、弁護士のみなさんが提訴して最高裁の判決を待つという繰り返しです。その意味で最高裁の判決はひとつのプレッシャーにはなっている。だから、最高裁はもっと踏み込んだ判決をして、一票の格差を完全に1に近づけないといけない、とか、今の選挙制度だと違憲だけど有効としているところを無効とするとか、より断固とした姿勢を示すという方策はあるかもしれません。

 「無効」となれば、反応は全然違ってくるでしょうね。

井堀 最高裁がもう一歩ドラスティックな判断をできれば、より抜本的な改革をすべきだというプレッシャーになるかもしれませんね(笑)。

 それと、抜本的かどうかは別として、今後は電子投票の流れが加速して細かい制度設計が可能になっていくでしょうから、選挙区の流動化が実務的にやりやすくなることは確かです。すると、10〜20年ぐらいの時間軸で考えれば、選挙制度をもう少しきめ細かく抜本的に変えることも、いまより断然実現しやすくなる。開票作業でも開封したり、名前を確認したりという作業はごく簡単になります。そうしてシステムが大きく変われば、選挙制度自体も抜本的に変わっていく可能性があるでしょうね。 

 やってみようか、と今よりは思うでしょう。

井堀 試行錯誤になるとしてもですね。それを実施するのが、現在世代としてわれわれの責務だと思います。