橘玲の日々刻々 2016年5月16日

元カノの親に「ストーカーはしません」とメールする時代
[橘玲の日々刻々]

 近所のレストランに行ったら、隣の席で家族連れらしき4人が食事をしていました。よくしゃべるお母さんがいて、その向かいに物静かなお父さん、10代後半の女の子と大学生のお兄さん、という組み合わせだと思ったのですが、聞くともなく話を聞いていると(というか、お母さんの声が大きいのでイヤでも聞こえてしまうのです)、食事を勧められている若者が「緊張してもう食べられません」としきりに謝っています。兄妹だと思ったらじつはカップルで、大学に入学したばかりの娘が、新しくできたカレシを両親に紹介していたのです。

 いまの若いひとには珍しくないかもしれませんが、私の世代にとってこれは驚くべきことです。「恋愛は二人の関係」というのは常識以前の話で、結婚の約束をしたわけでもないのに親に会ってくれといわれたら、絶句して即座に関係を解消したでしょう。

 このエピソードを書いたのは、後日、さらに信じがたい話を聞いたからです。

 ある母親(知人の知り合い)が、社会人になって3年目の娘から、「結婚を前提に交際しているカレがいるから紹介したい」といわれました。ところがその後、どういう理由かわかりませんがうまくいかなくなって、「別れたから会ってくれなくてもいい」となったそうです。ここまでならふつうの話ですが、それから2週間ほどして、母親のところに娘の元カレからメールが送られてきたといいます。

 それはきわめて丁重な文面で、「娘さんと交際していましたが、自分の不徳で結婚にはいたりませんでした」とこれまでの経緯を述べたあと、最後に次のような文章が書かれていたといいます。

 「今後、娘さんにつきまとったり、ストーカー行為をはたらくようなことはぜったいにありませんので、ご安心ください」

 これにはさすがに仰天するのではないでしょうか。

 なぜこんなことになったかというと、両親が娘に、「いちど決めた結婚の約束を解消するのだから、相手との関係をちゃんと清算しておきなさい」といったからのようです。社内恋愛とのことですから、これからも元カレに会社で会うわけで、親が心配をするのはわかります。

 予想外なのは、娘と元カレの行動です。

 親から説教された娘は、それをそのまま元カレに伝えます。「ちゃんとしてよ」といわれた元カレは、別れたカノジョの(会ったこともない)母親に当てて長文の謝罪と誓約(今後、ご迷惑はおかけしません)を書いたのです。

 ここでもういちど私の世代の話をすると、つき合っているカレシやカノジョのことを親に話すなどということはあり得ないし、仮に親になにかいわれたとしても、それを相手に伝えるなど考えられません。ましてや、相手の親に手紙を書くなど想像をはるかに超えています。

 これを聞いて思ったのは、日本の社会(の一部)では、恋愛は個人的なものから家族と共有する体験に変わっているのではないか、ということです。

 いまでは大学の入学式に親が参加するのは当たり前で、新卒採用で保護者の意向を確認する「オヤカク」が企業のあいだで広がっているといいます。「個人からイエへ」という流れは恋愛だけでなく、日本社会は前近代へと回帰しているのかもしれません。

『週刊プレイボーイ』2016年5月9日発売号に掲載

 

橘 玲(たちばな あきら)

 作家。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ベストセラーに。著書に『日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル』(ダイヤモンド社)など。中国人の考え方、反日、歴史問題、不動産バブルなど「中国という大問題」に切り込んだ『橘玲の中国私論』が絶賛発売中。最新刊『言ってはいけない 残酷すぎる真実』(新潮新書)が発売中。

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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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