「楽しそうに勉強を教えてくれる先生」に出会って人生が変わった

石川 それで、そのままSAPIXという塾に連れていかれてしまいました。でもじつは、この塾がぼくの人生を変えてくれたんです。3年間、担当してくれた石崎先生という方がとてもよかったんです。まず何をやったかというと、ぼくの母親に向けてこう言ったんです。「中学受験がうまくいかなかったのは、お母さんが介入しすぎたからです。私がこれから3年間、しっかり面倒を見ますから、お母さんは何もしないでください」

ムーギー そこに考えがあれば、「何もしないでいてあげる」というのも親ができることの一つなんですね。

石川 そうなんです。そして、石崎先生が勉強の楽しさを教えてくれました。

 

「子どもの思考力を鍛え、楽しく勉強させる秘訣」とは?ムーギー・キム
1977年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。INSEADにてMBA(経営学修士)取得。大学卒業後、外資系金融機関の投資銀行部門にて、日本企業の上場および資金調達に従事。その後、世界で最も長い歴史を誇る大手グローバル・コンサルティングファームにて企業の戦略立案を担当し、韓国・欧州・北欧・米国ほか、多くの国際的なコンサルティングプロジェクトに参画。2005年より世界最大級の外資系資産運用会社にてバイサイドアナリストとして株式調査業務を担当したのち、香港に移住してプライベートエクイティファンドへの投資業務に転身。フランス、シンガポール、上海での留学後は、大手プライベート エクイティファンドで勤務。英語・中国語・韓国語・日本語を操る。グローバル金融・教育・キャリアに関する多様な講演・執筆活動でも活躍し、東洋経済オンラインでの連載「グローバルエリートは見た!」は年間3000万PVを集める大人気コラムに。著書にベストセラー『世界中のエリートの働き方を1冊にまとめてみた』(東洋経済新報社)がある。

ムーギー『一流の育て方』の第5章は、勉強に対する動機づけがテーマになっています。多くの家庭教育アンケートを見たところ、最も勉強しないのは親に「勉強しろ」と強制されたときのようです。逆に、勉強の「楽しさ」を教えてもらった場合は自分から勉強するようになると答えた人が多くいました。まさに石川さんがおっしゃる通りです。石崎先生はどうやって勉強の楽しさを教えてくれたんですか?

石川 ぼくが石崎先生のおかげで勉強が楽しくなったポイントは2つあったと思います。1つは、「解ける問題を選んでくれた」こと。自分のレベルやスキルに合ったちょうどいい問題を解くのは楽しいし、達成感がありますよね。

 もう1つは、「本質的な部分を教えてくれたこと」です。たんに問題を押しつけるのではなく、この問題はこんな本質とつながっている、だから日常のこんなことにも関係しているといったことを丁寧に教えてくれました。

 あと付け加えると、勉強を教えるとき、石崎先生自身が楽しそうだったんです。もしかしたら、これがいちばん大事だったのかもしれません。ハーバードでも、内容がよくわからなくて面白くないなと思っていた授業が、楽しそうに話す先生のおかげで、どんどん面白く感じていったということがありました。先生が、いろんなことを夢中で説明して、自分で面白がって笑ったりしているんです。

ムーギー そういう方、いらっしゃいますよね。親でも先生でも、教える側が勉強を楽しんでいたり、楽しそうに教えるというのは、非常に大事なことなんですね。

「長く努力を続けられる人」の共通点は?

石川 ぼくがずっと努力を続けてこられた理由としては、石崎先生に出会ったことも大きいんですが、ぼく自身がずっとコンプレックスを抱えていたのもよかったのではないかと感じています。

ムーギー どんなコンプレックスですか?

石川 ぼくは中学受験で全敗したので、その時点で、自分はダメなんだな、というコンプレックスを抱えることになりました。でも、高校受験では全部合格することができて、筑駒(筑波大附属高校)に行きました。これでコンプレックスが解消されると思ったら、全然違いました。

ムーギー どう違ったんですか?

「子どもの思考力を鍛え、楽しく勉強させる秘訣」とは?

石川 筑駒に入ったら入ったで、まわりの人たちの頭が良すぎてさらにコンプレックスをふくらませました(笑)。全国模試でつねにトップに名前が出ているような人たちがたくさんいて、休み時間に「これからの地方自治」について話していたりするんです。高校1年生がですよ(笑)。それでまたコンプレックスです。勉強ではこいつらに絶対にかなわないなと。

 一方で、ずっとコンプレックスを抱え続けたからこそ、「では自分は何だったらうまくできるのか?」ということを結果的に長いこと試行錯誤できたと思うんです。

ムーギー なるほど、反骨精神のようなものですね。