円高が進行し、15年ぶりに85円を突破した。

 マスメディアは歴史的な円高に危機感を露わにし、口効かぬマーケットを代弁するかのように日本政府・日本銀行の無策を批判する。輸出企業に打撃を与え、リーマンショックをようやく克服した収益回復の動きを抑え、株価を低迷させる、と脅す。当局の動きの遅さに対して“不戦敗”は許さぬと宣言し、日銀に追加金融緩和策を強引に要求し、財務省による日本単独の円売り・ドル買い介入もありえる、とまで強調する。

 だが、「今の円高は想定された事態だ」とする経済の専門家――通貨当局幹部、経済学者、企業経営者――が、いないわけではない。

 彼らの論理を解説しよう。

 私たちが、2008年9月のリーマンショックによる世界金融危機によって思い知らされたのは、もはや“米国一極集中経済“には依存できないということだった。もう少し正確に記せば、世界中のほとんどの国が経常収支黒字のなかで、米国だけが赤字であるというグローバルインバランス(世界的な経常収支の不均衡)は持続できない、いつか破綻するという事実であった。つまり、高いリターンを求めて米国一国に世界中の資金が集中し、資本が投下されることによって、世界が好景気を維持することなど不可能だ、ということである。

 世界経済は今、そのグローバルインバランスが是正される過程にある。米国は熱狂的な消費など影を潜め、輸入が減り、経常赤字は減っていく。集められる資金、投下される資本は減少する。日本は逆に、輸出が減り、投資機会が減少するから経常黒字が縮小する。国内消費が相対的に増加する。この間に進行するのは当然、「円高・ドル安」なのである。

 そして、昨年から欧州では財政危機問題が各国にのしかかり、解決のめどなど立ちようがない。復調しかかったに見えた米国経済は、6月頃からにわかに変調し、“日本型デフレ”の入り口に立っているとの見方が広がり、危機感が増している。当然のごとく、ユーロもドルも売られ、欧州も米国も輸出に経済好転の光明を見出そうとして、自国通貨の下落を放置している。