SAPジャパンの人事改革
自ら挑戦したグローバル人事への大転換

ビジネスのグローバル化に対応し
2010年に始まった人事変革

SAPジャパン
常務執行役員 人事本部長
アキレス美知子
上智大学比較文化学部経営科卒業。米国フィールディング大学院組織マネジメント修士課程修了。複数のグローバル企業で人事・人材開発を担当。あおぞら銀行常務執行役員人事担当、資生堂執行役員を経て現職。

 業務アプリケーションで世界をリードしてきたSAPは2010年、「クラウドカンパニーになる」と宣言した。同時に、意欲的な成長目標を設定。新たな経営戦略を受けて、各部門でも変革への機運が高まった。人事部門で大きなテーマになったのが、グローバル人事へのシフトである。

 「2010年まで、人事の組織や業務は各国最適で行われており、給与や評価などの制度も国ごとに異なっていました」と明かすのは、SAPジャパンで人事部門を統括するアキレス美知子氏である。アキレス氏はこう続ける。

 「グローバルに人材を把握しようと思ってもタイムリーな情報が得られず、国や地域をまたがるような人材配置は難しい状態でした。また、国ごとに人事業務を行っていたため、全体で見ると重複や無駄が生じていました。事業の変革に合わせて人材戦略をよりグローバルに進め、グローバルリーダーとして活躍できる人材を増やしていくためには、人事のあり方を根本的に見直す必要があったのです」

 2010年にスタートした人事変革では、まず人事部門をグローバル組織化した。(1)センター・オブ・エクスパティーズ、(2)ビジネス・パートナー、(3)シェアードサービス・センターの3部門を設置し、グローバル人事戦略の早急な浸透を推進した。(1)は戦略づくりに特化した専門家集団、(2)は各事業部門に入り込んで人事面からビジネスを支援、(3)は定型業務を提供するのが役割だ。

評価基準や人事業務を統合

SAPにおける人事改革はどう進んできたかを語り合う南氏(左)とアキレス氏。

 人事組織の改編とともに、SAPは報酬を含めた人事評価の基準、各ポジションで求められる人材の要件、人材の選抜や抜擢に関わる業務プロセスのグローバル統合を進めた。それは、グローバル全従業員という大きな人材プールの中で適材適所を実現するための基盤だ。「社員全員がタレント」という方針の下、全員を3つのグループに分けてそれぞれの成長をサポートする仕組みを整えた。

また、M&Aで加わった企業との統合も重要なテーマだ。アキレス氏はこう説明する。

 「単にSAPのやり方を押し付けるのではなく、お互いの知恵やノウハウを持ち寄って新しい人事戦略をつくっていく。そんな方針で組織や業務の統合を進めました」

 グローバルでの組織改編に伴い、権限の体系も刷新された。例えば、前ページに登場した南氏はアジアパシフィックの組織に所属しており、直属の上司は現在、オーストラリアの現地法人に勤務しているという。

 「上司と顔を合わせることは年に数回しかありませんが、人事システムやさまざまなコミュニケーションツールを使って密接にやり取りしています」と南氏は言う。

 「人事部門がビジネスのパートナーとして企業の成長をサポートする。それが、この5年間の変革の大きな目的。さらに一歩、二歩と前進するために、人事部門がなすべきことはまだ多くあります。こうしたチャレンジを通して得た知見をお客様と共有し、具体的な人事変革に役に立ててもらいたいと考えています」とアキレス氏。

 言うまでもなく、この人事変革において、SAPの人事システムは欠かせない情報基盤となっている。前のページで説明した強みを活かし、事業のシミュレーションから導いた人材計画を即座につくることができ、PDCAを繰り返すことで事業の成長に貢献する人事制度が構築できている。

 グローバルビジネスに対応する人事はどうあるべきか。その正解は企業ごとに異なるが、SAPが学んだことから得られる示唆は多いはずだ。

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