エンジニアのDさんは30数名の部下を束ねるプレイング・マネジャーです。日常的に会議やミーティングも多いのですが、席につけばついたで、部下たちが「ちょっといいですか」と頻繁に声をかけてきます。

 チームの業績と部下の成長を考えれば、部下とのコミュニケーションは最優先にすべきだと考えているDさんは、なるべくそうした相談に応じるようにしています。

 しかし、部下が30数名となると、部下が次々とプラプラやってきて、自分では短く相談に応じているつもりでも、気づけばアッという間に夕方になってしまい、自分の仕事ができなくなってしまいます。

 そこで、Dさんが工夫しているのは、「ここで自分と話して何を得たいのか」を考えて、なるべく相手の頭と時間を使わせるようなリアクションを取ることです。

 要は、Dさんでなければ結論を出せないことだから聞きに来ているのか、ただ自分の不満や愚痴を聞いてほしいから来ているのか、といったことを判断して対処しているのです。

 部下の相談内容を精査してみると、同じ「ちょっといいですか」から始まるものの、中には意味のない話をダラダラする部下も少なくありません。そういう気配が感じられる場合には、「もう少しポイントを絞ってからにしようか」と応じて、部下自身でもっと整理することを促すそうです。

 それはDさんの時間を使って解決するのではなく、部下の頭と時間を使って対処するようにすることですから、Dさんの時間を節約できる以上に、部下の自己成長も促すことになるので一石二鳥です。

 また、「ここで解決したいことって、こういうこと?」と返すようにもしています。理解してほしいために説明が長くならないように、部下の意図が共有できた時点で、部下が望んでいることを確認するのです。

 当然、その場で解決策が明示できればいいですが、即断できない場合もありますし、それをその場でディスカッションしていると時間はいくらあっても足りません。そもそも、それを考えるのは部下の仕事です。そのため、Dさんは「それじゃ、ここでは解決できないから、後にしてもらっていいかな」というさばき方もしています。

 また何か問題があって、それを改善する方法を考える場合は「じゃ、“提案”にして持ってきてください」と応じます。解決策をDさんが自分の時間を使って考えるのではなく、部下が自分の頭と時間を使って練り上げた提案をDさんがジャッジするのです。

 単なる愚痴も、「こういう問題に対してどうしたいと思うか、“提案”にして持ってきてほしい」と促しています。

 部下の相談というのは、単なる報告より、何かしらマネジャーの「解決策」を期待していることが多いかもしれません。しかし、その解決策を瞬時に考えることができる人は稀でしょう。その結果、部下と一緒にゼロベースで悩みながら時間がどんどん経っていくというのが現実です。

 そこで、Dさんが工夫したのは、いかに部下に“提案”としてまとめてもらうか、ということです。提案があれば、それに対してジャッジすることは難しくないでしょうし、提案という素材があれば、それに対して新しい角度からヒントを出すことも効率的にできるのです。

「提案にしないと受け付けない」という暗黙のルールをチーム内に徹底できれば、部下も必然的に自分で頭を使うことになって育成にもつながりますし、結果的に自分の時間を確保できるのです。

【ポイント】解決したいテーマを「提案」にして持ってきてもらう

第7回に続く(6/8公開予定)