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5月31日 13時41分
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消費増税延期で懸念される「格下げ」とその影響 - 金融テーマ解説

1. 日本国債の格下げはありうるのか

G7も終了し、政府内では、消費増税延期の是非を巡る議論が本格化している。これに対し、一部では、日本の国債格付けの引き下げに対する懸念が台頭している。

我々は、消費増税が短期間再延期されるだけならば、格付会社はすぐには格下げしにくいと考えている。既に、前回14年11月の消費増税延期発表後、ムーディーズでは14年12月に格下げを行っており、S&Pも、経済成長鈍化や財政バランス改善の遅れなどを理由に、15年9月に格下げしている(図表1)。

前回の格下げからも間もない上、報じられているような2年半程度の短い期間の先送りなら財政への影響もさほど大きくない。これだけでは、格下げの理由としてはやや弱いと思われる。従って、我々は、格付けの引き下げは、ひとまず無いか、または、格付けの「見通し」を現在の「安定的」から「ネガティブ」に変更する程度という軽微なレベルに留まる可能性が高いと考える。(注:「ネガティブ/ポジティブ」という格付けの見通しは、1~2年後に、それぞれ格下げ/格上げとなる確率が2~3割程度あることを表す。)

しかし、そもそも日本の国債格付けは、世界最悪レベルという対GDP比債務残高との比較では決して悪くない(図表2)。相対的に高めの格付を付与されている背景には、国の総合的な経済力や将来の徴税力等が加味されていることがある(なお、国内投資家が多いということはあまり加味されていない。投資家層は利回り環境によって容易に変わりうるためだ)。

従って、将来の徴税力を不安視させる増税の再見送りはそれなりの格下げ要因である。過去にも見られたように、こうした税制改定の遅れに、経済成長鈍化やインフレ率の低下(デフレへの逆戻り)などが加われば、もう一段の格下げの可能性は高まる。

以下では、万一日本国の格付けが引き下げられた場合の影響を、為替、金利、金融の3つの側面から検討する。結論としては、為替や国債利回りといったマクロ面への影響はごくごく軽微にとどまるだろう。しかし、過去の格下げ時とは規制や環境が異なるため、新たなリスクも出てきており、銀行や外貨調達の大きい事業法人については、相応のマイナス影響が生じうるだろう。

2. 日本国債が格下げされた場合の影響度

1)為替市場への影響

前回14年11月の消費増税延期の際には、14年12月のムーディーズに続き、他の大手格付会社2社が相次いで日本国債の格下げを行った。

格付各社が連続して格付を変更する際、影響はだいたい最初の1社の変更時のみで発生する。前回の国債格下げ時も、最初に動いたムーディーズの変更前日に118.6円だったドル円為替レートは、1日で80銭、1週間以内の最大値で3円、円安方向に振れた。但し、これは日銀に対して安倍首相が日銀にインフレ目標引き上げを強く迫った時でもあり、格下げの影響がどの程度だったのかは不明である。それ以前の主な格下げ時でも発表当日に1円前後の円安になった程度だった(図表3)。

多くの場合、為替レートは、それ以前から財政悪化等の格下げ要因を織り込んでいることから市場を動かす原動力にはなりにくい。また、日本の場合、海外不安が大きい時には、逆に円高基調となっているところでの格下げなので反応が鈍いという要因もある。

今回も、もし格下げがあったとしても、為替レートには既に景気回復の鈍化等は織り込まれているため、影響はまず限定的と思われる。

2)国債利回り、社債利回りへの影響:日銀が購入している限り、影響は皆無に近い。但し、債券投資家の保有制限抵触には注意

今回、超最悪のシナリオを考えても日本国債の格付けは「Aレンジ(A+~A-)」に留まるだろう。債券投資家は債券の格付けで保有制限を設けている場合が多いが、通常は「BBB-以上」や「A-以上」という具合に、レンジで区切る。その点、今回は「Aレンジ」という同じ符号の中での格付変更なので、新たに保有制限に抵触するようなケースはまずないだろう。

但し、事業法人の格付けにはやや不透明感もある。日本だけで営業している企業の格付けは、国の格付けが上限となることが一般的だ(トヨタなど収益が国際的に分散している企業はこうした制約はない)。このため、国の格付けが「A」から「A-」に引き下げられれば、「A」だった内需系企業は「A-」に格下げされる可能性が高い。

国より1ノッチ以上格付けが低い企業は、この上限には抵触しない。従って、理論的には、国が格下げされても格付けは維持され、国の格付けに並ぶこともありうる。しかし、高格付けの企業は、国力に総合的に支えられていることが多いので、通常は国のデフォルト(債務不履行)・リスクが高まれば、国の格付けに近い国内企業の格付けも国の格付けに連動して引き下げられることもありうる。例えば、現在国より1~2ノッチ低い「A-」の企業が、日本の格下げに呼応して「BBB+」に格下げされるリスクは排除できない。

こうした企業に対しては投資基準を「Aレンジ」以上と設定している債券投資家は投資しにくくなり、マイナス金利でせっかく低下してきた調達コストが上昇してしまう可能性もある。特に外貨調達については、条件が厳しくなる可能性が高いだろう。

3)銀行の調達コスト、発行債券の格付けへの影響:相対的には影響大

銀行への影響は、上記の点に比べると深刻である。銀行の格付けは、その国の格付けがほぼ上限とされており、現在国の格付けと同水準になっている銀行が多い。これらの銀行は、国の格付けが引き下げられたらほぼ間違いなく格下げの憂き目にあうだろう(図表4)。


銀行の格付けは種類が多く、格付け会社によって考え方が異なるのでわかりにくいが、一般的な銀行格付けの階層構造を図表5に示した。

銀行の格付けは、一般に国と同等か1ノッチ程度下に位置し、持株会社は更に1ノッチ低い。例えば、社債の発行体が「三菱UFJフィナンシャルグループ」であった場合、発行される普通社債の格付けは、「三菱東京UFJ銀行」が発行する普通社債よりも1ノッチ低い。

ならば社債発行は、格付けの低い持株会社ではなく銀行本体で発行すればよさそうなものである。しかし、近年の規制によって、銀行は数兆円にも上る新型債券(TLAC債=損失吸収型債券=疑似資本と見なされる)を、持株会社で発行しなければならなくなった。債券に投資する場合、銀行で発行されるのか持株会社で発行されるのかを見定める必要がある。

更に、銀行の場合、外貨調達コストが格付けの影響を受ける。現在大手行は、各行数十兆円もの外貨運用資産を抱えている。これらの3分の1程度は外貨預金だが、残りの3分の2は、手持ちの円をドルに転換するか、海外の銀行間取引市場で調達するか、CP・社債を発行するかといった方法で海外で調達する必要がある。

つまり、大手行は常に各行10~30兆円もの外貨を、預金以外の何らかの形で市場等から調達していることになる。海外の投資家は日本市場の参加者とは異なり、どうしても日本に投資しなければならないわけではない。このため、日本企業に対する資金供給金利も日本企業よりシビアであるし、相手の格付けにも敏感である。

米ドルの調達のために、円金利にどれだけ上乗せしなければいけないかを示す「ベーシススワップ・レート」は、じわじわと上昇しているが(図表6)、格下げを受けたら、調達条件が一層厳しくなる可能性もある。

因みに、10兆円の外貨調達が必要な銀行であれば、調達コストが1bp上昇するだけで、年間10億円のコスト増となる。

以上のように、日本の国債格付が引き下げられる可能性は、消費増税の短期的な先送りだけならさほど高くないだろう。しかし、他のマクロ環境の悪化が続けばその可能性は排除できない。そして、格下げが現実となった場合のマイナス影響は、マクロの問題としては軽微であるが、銀行セクターや外貨調達が大きい一部企業にとっては無視できないものとなるだろう。

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