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新成長戦略に「効果期待薄」の声 人口問題・生産性向上に課題

ロイター
2016年6月3日
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政府は2日、「骨太方針」「1億総活躍プラン」「新成長戦略」を閣議決定したが、市場の反応は冷ややかだ。(2016年 ロイター/Issei Kato)

[東京 2日 ロイター] - 政府は2日、「骨太方針」「1億総活躍プラン」「新成長戦略」を閣議決定したが、市場の反応は冷ややかだ。日経平均は一時、前日比400円超の下落となり、ドル/円も108円台に下げ、株安/円高が進行した。

 エコノミストからも日本経済の潜在成長率の上昇は期待できず、経済低迷が長期化しかねないとの悲観論が浮上。解決策として人口問題と生産性向上に真剣に取り組むべきだとの声が出ている。

 2日の日経平均は1万6600円台を一時割り込み、ドル/円もいったん108円後半に下落した。市場関係者の話を総合すると、消費税率の引き上げ延期以外に目立った景気刺激策が政府から出ておらず、新成長戦略なども新味がないため、海外勢を中心に円買い/株売りが出ている。

 JPモルガン・アセット・マネジメントのグローバル・マーケット・ストラテジスト、重見吉徳氏は「構造改革や成長戦略の政策に関し、これまでの実績から見て実現性の期待は低い。2020年のプライマリーバランス黒字化目標を据え置いたことで、財政再建と支出のバランスどう取るのかにも疑問が残る。景気が良くなれば税収も増えるとするが、今の日本は労働状況などから見て、足元の景気は悪くない。これ以上景気を良くしようとすれば過熱させることになり、いずれその反動が出てしまうだろう」と述べている。

 マクロ経済の専門家からも、日本の潜在成長率の引き上げにつながるか疑問だとの声が出ている。

 第一生命経済研究所・首席エコノミストの熊野英生氏は、アベノミクスの中で財政政策の負担が急速に大きくなっていると分析する。

 消費増税の延期や、2016年度第2次補正予算を中心にした経済対策が5兆─10兆円規模と仮定すると、16年度終盤から17年度にかけて「GDP(国内総生産)を0.7─0.8%程度押し上げるだろう」と予測する。

 しかし、日本経済の真の実力とも言うべき潜在成長率の押し上げに関しては「イノベーションによる生産性の向上が、新成長戦略などでどの程度見込めるのか不透明感が強い」という。

 0.2%前後まで低下したみられる日本の潜在成長率の上昇について「大きな期待はできない」と分析している。

 熊野氏は、成長戦略と実際の成長力が直接的にリンクしない要因として、戦略特区に注目している。例えば、先進各国が競って開発を始めた自動車の自動運転では、今年2月29日から神奈川県藤沢市で実証実験が始まったが、3月11日で終了。「実験の範囲や期間が短く、実用化に向けて最も重要なデータの蓄積という面でかなり制約がある。AI(人工知能)やビッグデータを活用した他の先端技術活用でも似たような状況にあり、生産性の向上に結び付くには相当の時間がかかりそうだ」と予測する。

 実は、政府部内にも成長戦略の効果について、疑問を付ける見方もある。ある政府関係者は「安倍首相は、IoT(モノのインターネット)やAIの活用を柱とする第4次産業革命を提唱した。しかし、夏の官民会議でどこまで制度改革に乗り出せるかの道筋ははっきりしない」と話す。

 さらに「省庁間の連携なしに取りまとめたロードマップに期待しろという方がおかしい」と、先行きの進展に懸念を示している。

 みずほ証券・チーフマーケットエコノミストの上野泰也氏は、日本の成長力底上げの鍵は、人口減問題が解決できるかどうかにかかっていると指摘する。

 上野氏の見立てでは、投入労働量を増やさないと潜在成長率の引き上げが難しく、イノベーションと生産性引き上げの源泉になる企業の設備投資への意欲も、国内市場縮小という悲観的な見通しの修正が欠かせないとみる。

 ところが、政府は移民の解禁には消極的。女性の労働参加率引き上げも、一方で求められている出生率の引き上げと両立させるのは「周囲の状況を実際に見ても、なかなか難しそうだ」と話す。

 厚生労働省が5月23日に発表した2015年の特殊出生率は1.46と1994年の1.50以来の高水準になったが、現状の人口を維持するために必要な2.07や1億人を維持するために求められる1.80には遠く及ばない。

 上野氏は「託児施設やそのスタッフが足りず、出生率の劇的な上昇を図る入り口の段階で、袋小路感が出ているのが実態。人口問題の解決には、相当の距離がある」と述べている。

 安倍首相は2020年度に名目GDP600兆円の達成を目標にしている。だが、2016年1─3月期は502.8兆円にとどまっている。複数のエコノミストは、600兆円達成のハードルは相当に高いと指摘する。

 新成長戦略の「効果」が出ない場合、目標達成には「赤信号」が点灯する。

 

(中川泉 編集:田巻一彦)

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