経営理念は「やりながら考える」でいい

【柳澤】言葉の定義を大切にしているからこそ、「いい理念」というものを定義してみたことがあるんです。

1つ目は、経営理念の中に「将来的に大きくなる」という意思が込められていること。成長性ですね。「経営者ってどんな職業なのかな」って考えたときに、やっぱり会社を大きくする仕事だと思うんです。

2つ目は、どんな事業をするか、どんな戦い方をするかが経営理念からイメージできること。その言葉から「事業」や「戦い方」のイメージがまったく湧いてこないと意味がありません。少なくとも「ああ、こういう事業ってありだな」とか、「この戦い方はありだな」とイメージできるものでなければなりません。

3つ目は、社会に貢献するようなものにつながっていること。そうでないと、やはり最終的には行き詰まるような気がします。

【藤沢】なるほど。すごく練られている。

【柳澤】はい。でも、3つ定義しましたけど、実際はあてはまらなくてもよい理念はいっぱいある。たとえばサイバーエージェントのビジョンは「21世紀を代表する会社を創る」ですけど、この言葉からは成長性や、戦い方のイメージが強く湧きます。働いている人も、「ああそうか、時代を代表する会社にしなきゃいけないから、こんなことやってられないな」とかそういう話になるでしょうし。ちゃんと生きた理念になっていることが重要で、生きてない理念は変えた方がよい。ただ、サイバーエージェントさんの理念も22世紀になったら変わるんでしょうけどね(笑)。

【藤沢】経営理念を変えたり、少しみんなで見つめ直して、また考え直したりって、どういうタイミングでやっているんですか?

【柳澤】基本的には、理念は経営者がつくると思うんですけど、やっぱり生きた言葉になってないと感じたときは変えなきゃいけないですよね。社員が誰も理念を覚えていないとか、自分自身も理念をまったく意識していないとか。理念だけ掲げても、役に立っていないと本当に意味がないんですよね。逆に、本当にいい理念は、イノベーションを起こすところまでつながりますから。「その言葉でイノベーションが起こる」という確信がない限りは、それが見つかるまで変えたほうがいいと思います。でもわからないですよね、最初はね。

【藤沢】わからないですよね。

【柳澤】やりながらたぶん、「あ!これだ!」って見えてくるというか。

【藤沢】最高のリーダーは何もしない』の中でも触れているんですけど、よく経営者さんから聞かれるのが、「ビジョンや理念なんてまったくないんですけど、どうしたらいいですか?」とか、「会社の社長をとりあえず引き継いでやらなければいけないんだけど、どうやって理念をつくったらいいですか?」というような、素朴な悩みなんですよね。ビジョンが大事なのはわかるけれど、どうつくればいいのかがわからないという。

リーダーはもっと「言葉」にこだわったほうがいい

【柳澤】「やりながら考える」でいいと思いますけどね。ただもちろん、初めからあったほうが強いことは確かです。「自分はこのために生きてるんです」と言い切れたほうが絶対に強いですからね。でも、そんなにすぐには出ないだろうから、最初は適当でいいんじゃないかな。やりながら自分の強みを言語化していくというか。そうやってつくるものだと思いますけどね。

【藤沢】やりながら考えるときに、「みんな」で考えるのか、「一人」で考えるのかについてはどうですか?

【柳澤】それはその会社の方針によるでしょうね。ぼくらは「つくる人を増やす」という理念自体が、周りを巻き込むことを大切にしているので、理念においてもみんなで考えるというプロセスをとりました。でも、そこをあまり重視しない人は、みんなで考える必要もないし、自分で考えて「これでいくぞ!」でいいと思います。

【藤沢】とはいえ御社も、最初の最初は、みんなで考えていないじゃないですか。最初に理念をつくったとき。

【柳澤】考えていないですね。

【藤沢】その、最初みんなで考えてないでつくった理念を、みんなに下ろしていくときって、どのようにしたんですか?

【柳澤】実は、下ろしていないんですよ。「面白法人」という言葉はみんなに浸透したけど、「つくる人を増やす」という理念については、最初につくったものから今、5バージョン目くらいなんです。ここに至るまでは全然浸透してなかったと思いますね。

【藤沢】ということは、最初の理念は自分たち経営陣のためのものというか、つくった人たちのためのものだったのですか?

【柳澤】そうですね。でも、「つくる人を増やす」という現在の理念は、とても短いし、覚えやすいので、浸透しやすかったと思います。実は、「つくる人を増やす」を理念にして以降、「○○を△△する」という経営理念の会社が増えましたので、多少は影響があったのかなと思います(笑)。

【藤沢】なるほど。最初は、別に浸透させるわけではなく、自分たち経営者や、理念をつくった仲間たちの共有軸みたいなものだったんですね。でもそうだとすると、その後みんなで理念をつくっていくというときにベースになるのは、最初の理念なんですか?それとも、まったくのゼロベースで、新たにみんなで、カヤックをこういうふうにしようっていうものが出てきたんですか?

【柳澤】会社が50~60人の規模になったときに、「つくる人を増やす」という経営理念が決まりました。これはみんなでつくりましたけど、その後に入社してくる人にとっては、すでにつくられた理念なわけだから、あまり関係ないですよね。つくるプロセスは重要ですけど、どうせ会社は大きくなるんだから、どっちでもいいかなと思っています。

【藤沢】確かに。言われてみればそうですね。どんどん新しい人が入ってくるんですもんね。