IFRSが日本においても導入されようとしている。IFRSは、財務報告の基準であるため一義的には経理・財務部門のテーマであるが、これまでの日本の会計基準との差異の大きさ等により、様々な業務に影響がある。今回取り上げる人事総務部門もその例外ではない。

<人事業務>
人事業務に関しては、「全社の人事・給与制度」に関連する部分と、「IFRSの影響を強く受ける経理・財務部門の人事・給与制度」に関連する部分の2つの側面で影響が想定される。

「全社の人事・給与制度に関連する影響」
新たな債務「有給休暇引当金」の認識も

 まず、全社の給与制度に関連する部分についてみていこう。これについても、IFRSへの移行によって企業の財務報告上の各種数値の算定方式が変更されることによる影響と、各企業が人事給与制度上負っている債務の計上方法の変更による影響の2つに分けられる。

 企業は、自社の人事給与制度上、様々な債務を自社の従業員等に負っている。従来の日本の会計制度上でも、それらの債務は財務諸表上で表現されてきている。例として挙げられるのが、未払い給与・賞与、年金債務等である。

 IFRSにおいても、同様な債務の計上が求められるが、その計算方法や開示内容が一部変更される部分がある。それが、年金債務計算時の「数理計算上の差異」が発生したときの処理や「過去勤務債務」の処理方法である。また、現在IASB(IFRSの検討機関)で検討されている新しい基準では、「年金数理上の差異」が発生した場合に、当該差異額を発生した期に全額認識することも検討されている。

 実際の処理方法等は、経理部や年金数理の専門家、監査法人等と検討して決定していく必要があり、人事総務部門が主体的に対処するケースは少ないと考えられる。しかし、当該処理方法の変更により財務諸表に与える年金債務の金額規模が大きくなり、企業の財務体質を大きく悪化させる可能性がある場合には、既存の年金制度を変更することで、財務体質の維持を図る必要が出てくる可能性がある。

 たとえば、確定給付型年金を確定拠出型に変更したり、確定給付型年金の給付水準の見直し等の施策である。このような場合には、人事部門が経理・財務部門とともに主体的に対応する必要があり、また当該対応には、非常に大きな労力を必要とする場合が多いので、注意しなければならない。