商社業界で初の純利益トップに立った伊藤忠商事。2016年度の連覇を見据え、財務体質の強化を着々と進める。一方、収益基盤拡大の鍵を握るのが、中国市場への攻め口だ。(「週刊ダイヤモンド」編集部 重石岳史)

「2016年度こそが本当の勝負です。(中略)赤字決算に追い込まれた三菱(商事)は死に物狂いで巻き返しを期しており、予算も相当保守的とみられ、公表の予算とは別に、それを上回るV字回復を狙っていることは明らかです」

 5月の決算公表後、伊藤忠商事のイントラネットに掲載された岡藤正広社長のメッセージだ。

 伊藤忠は15年度、純利益2404億円で創業以来初の業界首位に立った(図(1))。純利益が前年度比2割減となったにもかかわらずトップになれたのは、三菱商事をはじめライバル商社が資源の巨額減損で“自滅”したことが大きい。伊藤忠の純利益に占める非資源比率は99%に達し、資源市況低迷の打撃は軽微で済んだのだ。

 岡藤社長が言うように、三菱商事が予算を上回るほどの「V字回復」するかどうかは別にしても、非資源を強化し「死に物狂いで巻き返しを期して」いるのは間違いなく、伊藤忠にとって16年度は“真の商社ナンバーワン”になれるか否か勝負の1年になりそうだ。

 16年度の予想純利益は、三菱商事の2500億円に対し、伊藤忠は3500億円。これは同社史上最高益であり、相当野心的な数字といえる。そもそも伊藤忠は、本当にこの計画を達成できるのか。

 セグメント別の純利益を見ると、資源以外で15年度に大きく減益したのは、繊維と食料だ(図(2))。これはアパレル関連事業や青果物関連会社で減損損失を計上した一過性要因があるためだ。あくまで将来リスクを軽減するための戦略的な減損であり、16年度は例年並みの収益力に回復する見通しだ。

 さらに「その他」の部門で期待される増益要因が、資本提携した中国最大の国有複合企業CITICの利益貢献だ。伊藤忠の持ち分法適用会社となり、16年度は約700億円の利益を取り込める見込み。これらを着実に積み上げれば、3500億円を達成する可能性は高いとみられる。