日本一の養殖ブリ産地、赤潮危機からの大逆転物語東町漁協で人工種苗によって誕生した養殖ブリ「新星鰤王」の初水揚げ風景

 ブリ養殖日本一を誇る鹿児島県。2万466トン(平成26年漁業・養殖業生産統計)と11年連続日本一を誇り、県内の海面養殖魚生産量の約5割を占める。

 同県におけるブリ輸出の歴史は古い。その先鞭をきったのが、前回から紹介している鹿児島県長島町・東町漁業協同組合だ。「鰤王」ブランドで展開し、輸出のスタートは昭和57年。養殖魚としては日本初だった。

「それぞれの生産者がバラバラに売るよりもみんなで一緒にやったほうがもっと利益を上げられる」という思いから漁協は一致団結。「一元集荷、全量共販出荷」という組織体制をつくり、海外ブリ輸出年間出荷量は19.5万尾、約16.5億円という単独漁協日本一を導くカギとなっている。

 実はそんな東町漁協には、もう1つ大きな強みがあった。それが「周年出荷」である。

365日いつでもブリを出荷できる
だから大企業と対等に戦える

「品質も、もちろん大切です。でも、我々が単独漁協日本一になれた根本的な理由は365日、いつでもブリを出荷できること。これは、他の漁協にはない強みです」と東町漁業協同組合 第二事業部部長の中薗康彦さんは語る。

 なぜ、それが可能なのか?

「それなりの数を所有していなければ周年出荷は難しい。我々は年間200万尾の確保があります。これだけの数を確保できているのは企業くらいでしょうね」(中薗さん)

 これも「一元集荷 全量共販」の成せる技。経営者でもある生産者全員を束ねた東町漁協だからこそ、大手企業と対等に戦えるのだ。

「お客さんが、ここだったら一年中大丈夫、絶対モノがある、という『安心した取引』ができること、それもブランドを築き上げるためには重要なんです」(中薗さん)

 安定した周年出荷体制が地位を確固たるものにしていた。

被害は120万尾、20億円!
東町漁協を襲った“未曾有の危機”

 ところが、そんな東町漁協に、未曾有の危機が訪れた。

 平成21年。有明海および八代海で毒性の強いプランクトンのシャトネラ・アンティーカ赤潮が発生したのだ。

「すさまじい数のブリが斃死(へいし)して、生簀は真っ白でした」(中薗さん)

 被害は120万尾、20億円。甚大な被害である。

「自分たちだけではもう、どうにもできない。町にも県にも国にも損失金の補填をお願いして、なんとかやっていこうとしました」(中薗さん)

 ところが、翌22年、またしても赤潮に見舞われてしまう。

「しかもその規模が大きすぎました。これでいよいよ終わりだと思いました」と中薗さん。被害は約150万尾、30億円。2年連続の赤潮被害は大打撃だった。

 そして平成21年は40日間、平成22年には51日間の出荷停止。東町漁協が維持し続けた、周年出荷が初めて途絶えたのだ。

「どんなことがあっても、出荷は絶やせない。取引先に迷惑をかけることになれば、ブランドがそこで消えていってしまう」

 日本一のブリ漁協として、赤潮という避けがたい最悪のリスクが起きようとも、出荷を途切れさせないために万全の対策をとるべく邁進した。