ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
あれか、これか ― 「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門
【第33回】 2016年6月20日
著者・コラム紹介バックナンバー
野口真人 [プルータス・コンサルティング代表取締役社長/企業価値評価のスペシャリスト]

ファイナンスのプロが
個人資産の9割を「○○」で持つ理由
【特別対談】楠木建 × 野口真人(第2/3回)

1
nextpage

ストーリーとしての競争戦略』などのベストセラーで知られる楠木建氏(一橋大学大学院教授)が最近「モノが違う!」と絶賛した一冊がある。発売からわずか1ヵ月半で4刷まで重版が決定したファイナンス入門書『あれか、これか』だ。
好きなようにしてください』『「好き嫌い」と才能』など、「好き」を価値判断の基準として掲げてきた楠木氏は、すべてを「カネ」に置き換えるファイナンス理論のどこに面白さを感じたのか?
ファイナンスのプロ・野口真人氏と経営学者・楠木建氏の対談を、全3回にわたってお送りしていく。今回が第2回目となる。(撮影/宇佐見利明 構成/前田浩弥 聞き手/藤田悠)

▼前回の対談記事▼
「好き」か「カネ」か、人生の基準は?
【特別対談】楠木建 × 野口真人(第1/3回)
http://diamond.jp/articles/-/92873

ところで、ファイナンスのプロは
どんな資産構成なのか?

楠木建(くすのき・けん)
一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授
1964年東京都生まれ。92年一橋大学大学院商学研究科博士課程修了。一橋大学商学部助教授・同イノベーション研究センター助教授などを経て、2010年より現職。専攻は競争戦略とイノベーション。
著書に『ストーリーとしての競争戦略』『「好き嫌い」と経営』『「好き嫌い」と才能』(以上、東洋経済新報社)、『好きなようにしてください』(ダイヤモンド社)、『経営センスの論理』(新潮新書)、『戦略読書日記』(プレジデント社)、Dynamics of Knowledge, Corporate Systems and Innovation、Management of Technology and Innovation in Japan(ともに共著、Springer)などがある。

【楠木】僕と野口さんの共通点は、仕事ではそれぞれに主張があるわけですが、個人としてはわりと「好きなようにしている」ことですよね。

【編集担当 藤田】どういうことですか?

【楠木】僕の仕事の分野は競争戦略で、『ストーリーとしての競争戦略』という本も書いていますけど、個人のキャリアや選択については、戦略やストーリーはあまり関係ないというのが持論です。自分のことを振り返っても、他人を見ていてもそうです。
そのビジネスにかかわる人々に共有された戦略ストーリーがないと、組織は動かない。しかし、一方の個人ではその必要性があまりない。個人としての生き方に、戦略ストーリーは不要だと考えているんです。僕のキャリアに戦略はないですね。
同じように野口さんも、『あれか、これか』ではファイナンス理論を説明していて、企業のファイナンスの話だったらこの本に書いてあることが正しいんだけど、野口さんが自分の資産について実際にどういう行動をとっているかというと、また違うかもしれませんよね。

【野口】以前、楠木先生に「資産運用はどうしてますか?」って聞かれたときに、僕、白状したんですよ、「ほぼすべて現金です」って。『あれか、これか』の趣旨とは真逆ですよね(笑)。ファイナンス理論に従えば、現金というのは「最も価値の低い資産」なわけですから。
でもじつは、僕はお金にはあまり興味がないから、資産を運用して毎日「今日の株価はどうなった?」って気にするよりも、現金は現金で持っておいて、自分の好きなことに集中するほうが有意義だと考えていて。

【楠木】本の「あとがき」に書いちゃえばよかったんじゃないですか?「『現金の価値がいちばん低いんだ』とここまで散々言ってきましたけど、ちなみに僕は、資産は現金で持っています」って(笑)。

【野口】身も蓋もない(笑)。実は、ちょうど今日、家に保険の勧誘が来たんです。養老保険の一種で、たとえば満期が20年だと、20年後の満期日に積み立てていたお金が返ってくるというものです。でも20年後って、僕はもう74歳ですよ。その年でそれだけのお金が返ってきても、いったい何に使えばいいのかと思ったんです。この保険商品がファイナンス的に魅力があるのかはさておくとしても、やはりあまりお金に興味がないんだと思いますね。

【楠木】ファイナンスのプロフェッショナルである野口さんが、ファイナンス理論からすると「非合理」なことをやっている。ということは、野口さんもプライスレスなものを基準に選択しているんですよね。「好きなように」している。

【野口】それもありますが、何よりも資産運用に走ると、目が曇るんですよ。価値の変動に煩わされないほうが、俯瞰的に物が見える。だから特に何も資産運用はやっていないんです。

【楠木】それはどちらかというと「資産の配分」の問題ではなく、「人間の注意配分」の問題かもしれないですね。人間の注意力っていうのは限られていますから。自分の注意をもっとほかの重要なことに振り向けたいという思いがあって、運用を気にしていること自体が、もう損失であると。これについては僕もまったく同感です。

1
nextpage
スペシャル・インフォメーションPR
ダイヤモンド・オンライン 関連記事
自分の時間を取り戻そう

自分の時間を取り戻そう

ちきりん 著

定価(税込):本体1,500円+税   発行年月:2016年11月

<内容紹介>
生産性は、論理的思考と同じように、単なるスキルに止まらず価値観や判断軸ともなる重要なもの。しかし日本のホワイトカラー業務では無視され続け、それが意味のない長時間労働と日本経済低迷の一因となっています。そうした状況を打開するため、超人気ブロガーが生産性の重要性と上げ方を多数の事例とともに解説します。

本を購入する
著者セミナー・予定
(POSデータ調べ、11/20~11/26)


注目のトピックスPR


野口真人(のぐち・まひと) [プルータス・コンサルティング代表取締役社長/企業価値評価のスペシャリスト]

1984年、京都大学経済学部卒業後、富士銀行(現みずほ銀行)に入行。1989年、JPモルガン・チェース銀行を経て、ゴールドマン・サックス証券の外国為替部部長に就任。「ユーロマネー」誌の顧客投票において3年連続「最優秀デリバティブセールス」に選ばれる。

2004年、企業価値評価の専門機関であるプルータス・コンサルティングを設立。年間500件以上の評価を手がける日本最大の企業価値評価機関に育てる。2014年・2015年上期M&Aアドバイザリーランキングでは、独立系機関として最高位を獲得するなど、業界からの評価も高い。これまでの評価実績件数は2500件以上にものぼる。カネボウ事件の鑑定人、ソフトバンクとイー・アクセスの統合、カルチュア・コンビニエンス・クラブのMBO、トヨタ自動車の優先株式の公正価値評価など、市場の注目を集めた案件も多数。

また、グロービス経営大学院で10年以上にわたり「ファイナンス基礎」講座の教鞭をとるほか、ソフトバンクユニバーシティでも講義を担当。目からウロコの事例を交えたわかりやすい語り口に定評がある。

著書に『私はいくら?』(サンマーク出版)、『お金はサルを進化させたか』『パンダをいくらで買いますか?』(日経BP社)、『ストック・オプション会計と評価の実務』(共著、税務研究会出版局)、『企業価値評価の実務Q&A』(共著、中央経済社)など。


あれか、これか ― 「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門

あらゆる「選択」に役立つ4つのノーベル賞理論が1冊でわかる! 2500件超の企業価値評価を手がけたファイナンス第一人者が教えるお金・リスク・価値の本質とは? 「カネほど無価値なものはない!」――お金に囚われず「本当の値打ち」を選びとるための最強の実学。

「あれか、これか ― 「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門」

⇒バックナンバー一覧