「カローラ」といえば、トヨタ自動車が誇る世界のベストセラー車だが、その売れ行きを支えてきた米国でこのところ、製品競争力の低下を指摘する専門家が増えている。そこに起きた8月のリコール。年後半にはゼネラル・モーターズ(GM)、フォード・モーターが対抗車種を投入する予定であり、逆風はさらに強まりそうだ。(文/ジャーナリスト、ポール・アイゼンスタイン)

 8月下旬、トヨタ自動車にとって米国市場で今年15件目となるリコールがあった。電気系統の不具合で走行中にエンジンが突然停止する恐れがあり、修理の必要があるというもので、対象は113万台(カナダ、メキシコを合わせると136万台)に及んだ。大半はコンパクトカーの「カローラ」である。

 数年前、それまで首位を占めていたフォルクスワーゲン「ビートル」を超えて以来、カローラは常に世界で最も人気の高い車種だった。同じく重要な(そしてより切実な)点は、トヨタにとってカローラは、競争の激しい成長市場である米国のコンパクトカー部門におけるベストセラー車であるということだ。だが、自動車業界アナリストの多くは、その優位もあまり長くは続かないかもしれないと警告している。

 不安材料は、リコールの影響だけではない。オートトレンズ・コンサルティングのジョー・フィリッピは、そもそもの問題として米国勢を中心とした競合メーカーがかなり競争力を増していると指摘する。

 しかも、「今年末までに、米国勢がコンパクトカー・セグメントに非常に優れた車種を2つ投入してくる可能性が高い」とフィリッピは語る。

 コンパクトカー市場における対抗車種として、フィリッピが(そして米国の購入者が)思い浮かべる候補は、フルモデルチェンジするGMシボレー「クルーズ」と、モデルチェンジが予定されているフォード「フォーカス」である。

 同セグメント全体の傾向でもあるが、両車種ともサイズは少し大きくなっているのに、旧型に比べ燃費は大幅に改善されている。1.4リットル・ターボの「エコテック」エンジンを搭載するクルーズの燃費は40マイル/ガロン(約17キロメートル/リットル)だ。フォーカスも、「エコブースト」と称する新型4気筒エンジンをオプションで選択すれば、同じような燃費水準に近づくだろう。

 さらに重要なポイントは、GM、フォードともコンパクトカーに対する古典的なアプローチを捨てたということである。

 シボレー「キャバリエ」やフォード「エスコート」など過去の車種は、オートパシフィック社を率いるジョージ・ピーターソンの言葉を借りれば、「ブリキ缶」に毛が生えたようなものだった。デザインもいい加減なら装備も最小限。パワー不足で、売りは低価格。販売先は営業車用途や価格最優先の購入者だけだった。