──では、なぜここまで『嫌われる勇気』は韓国で受け入れられ、続編の『幸せになる勇気』が出る際にはこれほど人々が集まったのでしょう?

もはや日韓の壁をのり越えた<br />韓国におけるアドラー・ブーム古賀史健(こが・ふみたけ)
株式会社バトンズ代表。ライター。1973年福岡生まれ。書籍のライティング(聞き書きスタイルの執筆)を専門とし、ビジネス書やノンフィクションの分野で数多くのベストセラーを手掛ける。2014年、「ビジネス書ライターという存在に光を当て、その地位を大きく向上させた」として、ビジネス書大賞2014・審査員特別賞受賞。前作『嫌われる勇気』刊行後、アドラー心理学の理論と実践の間で思い悩み、ふたたび京都の岸見一郎氏を訪ねる。数十時間にわたる議論を重ねた後、「勇気の二部作」完結編としての『幸せになる勇気』をまとめ上げた。単著に『20歳の自分に受けさせたい文章講義』

古賀 要素はいくつかあると思いますが、まずは、本当にアドラーの思想が普遍的なものであり、おそらく国境も人種も世代も超えられるコンテンツだということでしょう。その上で、いま韓国で読まれるべきタイミングだったこともあるかなと。そういうタイミングって、たぶん個人にはあるし、国とか時代にもあると思います。

──韓国の社会がいまアドラーを必要としていると?

古賀 そうですね。一つには日本以上にインターネットやSNSが発達していることも関係していそうです。たとえば、日本ではあまり使われない「ネチズン」という言葉が、韓国のメディアではよく出てきます。このネチズンがすごく市民権を得ているようです。でもその人たちはあくまでも匿名ですから、ネット上で過激なやり取りがなされることも多い。そのなかで自分をどう演じるかに汲々としてしまう。もちろん日本にも同様の状況はありますが、韓国は一段階先に進んでいるような気がします。

──なるほど。それゆえ、他者の目を気にせず自分らしく生きようとするアドラーの思想が受け入れられたと。岸見先生はいかがですか?

岸見 教育や就職に関しても、韓国は日本以上に厳しい状況にあります。だからこそ『嫌われる勇気』が、韓国の人々により深く刺さったのでしょう。ただ、1年前はまだアドラーを実践することについて皆さん手探りだったと思います。書いてあることを実践して自分を変えるのは、どうなるかわからないだけにすごく怖い。それでも徐々に勇気をもってアドラー的な生き方を実践する人がいて、手応えがあり、周囲もそれに気づいていった。だからこそ、これだけ多くの方に読まれたのでしょう。本の内容だけではなく、実践して変わった人たちの存在そのものが、さらに広がる要因になった気がします。今回、講演会の質疑応答やサイン会で読者の方と話をしながらそんなことを感じました。

古賀 サイン会では「『嫌われる勇気』を読んで実践してみてよかった」ということをおっしゃる方もかなりいましたね。