橘玲の日々刻々 2016年6月20日

不利な競争を避ける女と無謀なリスクを取る男
[橘玲の日々刻々]

 「女性は男性より競争に消極的で、出世争いで不利だ」といわれます。これは根拠のない偏見ではなく、次のような実験で確認されています。

 男女2人ずつのグループに計算問題を解いてもらい、正解すると100円の報酬を支払います。5問解けば500円もらえる「出来高払い」の条件では、男女に成績の差はありませんでした。

 次に4人を競争させ、もっとも多く問題を解くと賞金の全額を受け取れるという「勝者総取り」にルールを変えてみます。自分が6問解き、残りの3人が5問なら2100円もらえるのですから、みんな必死に問題に取り組みます。この競争によって全体のパフォーマンスは向上しますが、やはり結果に男女差はありませんでした。

 最後に研究者は、男性と女性の参加者にどちらのルールが好ましいか訊きます。すると、勝てる確率は同じにもかかわらず、男性の7割強が「勝者総取り」を選び、女性の7割弱は「出来高払い」を望んだのです。

 女性の「競争嫌い」は脳科学でも説明できます。脳の後部に位置する視覚大脳皮質は相手の表情から感情を読み取ることに関係しますが、ストレスを与えられると女性はこの領域が著しく活性化するのに、男性は逆に活動が抑制されます。これは緊急事態への対処法が男女で異なるためで、強いストレスを受けると女性は周囲のひとたちの共感を捜し求めるのに対して、男性は周囲の反応を無視して問題に集中しようとするのです。

 進化の歴史を通じて、男性(オス)は「競争する性」、女性(メス)は「投資する性」として淘汰の強い圧力を受けてきました。女性を獲得できなければ子孫を残せない男にとって失うものはありませんが、女性は妊娠から授乳まで大きな投資をして子どもを産み育てます。失うものが多ければ、リスクに対して慎重になるのは当然です。

 あらゆるゲームに共通するのは、「リスクをとらなければ勝利はない」ということです。男女の生理的な差を考えれば、競争社会の勝者に男性が多いのは「ガラスの天井」のせいではなく、参加者の数のちがいということになります。

 しかし、競争にはもうひとつ、「負ければなにも得られない」という現実があります。リスクをとった勝者の背後には、敗者となって脱落していく膨大な数の男性がいます。彼らが社会の底辺にふきだまるようになったのが「格差社会」です。

 こうして、問題はじつは無謀なリスクをとる男性の側にあるのではないか、との主張が出てきます。男性は自分の能力を過信して「勝てる」と錯覚しており、女性は自分の実力を冷静に判断して不利な競争を避けているのです。この仮説を証明するように、勝つ見込みがあると思えば、女性は男性よりも積極的にリスクをとり、勝負に執着するとの研究も現われました。

 現代のような複雑な社会では、勝ち負けはスポーツのようにすっきりとは決まらず、優勢と劣勢が入れ替わりながらずっと続くのがふつうです。男性は決着のつく「有限ゲーム」は得意ですが、終わりのない「無限ゲーム」を生き延びるには、不利な競争を避けて有利なときだけリスクをとる女性の戦略の方が効果的です。

 こうして先進国では、徐々に女性が社会の中核を占めるようになってきました。日本は男女平等ランキングで世界最低レベルの101位ですが、「女性が活躍できない社会に未来はない」のです。

参考:ポー・ブロンソン、アシュリー・メリーマン『競争の科学-賢く戦い、結果を出す』 実務教育出版

『週刊プレイボーイ』2016年6月13日発売号に掲載


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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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