優れたイノベーター企業となるためには、「中核事業の最適化」「新規ビジネスモデルの創出」「過去の忘却」という三位一体のサイクルを続ける――。これが、ゴビンダラジャンの提唱する「スリーボックス・ソリューション」の要旨だ。同名の新著から一部抜粋をお届けする。


 企業は、持てる力のほとんどを現在に注ぎ、未来への賢い投資ができない。私は長きにわたり、この現象をあまりに多く目にしながら悩んできた。

 たしかに、現在は非常に重要だ。既存事業は業績の原動力である。それは日々の運営資金をもたらし、未来のために必要な利益を生み出す。問題となるのは、現在への注力によって、他の戦略的優先事項が脇に押しやられてしまう時である。たとえば、自社に取り込んでいるスキルのすべてが、今日の中核事業にしか通用しないような場合だ。これはどう考えても近視眼的であろう。

「今日必要なこと」と「明日にできるかもしれないこと」は相容れないが、両方に対処しなければならない。マネジャーは日々の業務において、自分と組織の時間、意識、リソースを、この両方にどう割り当てればよいのか。その手段が経営の道具箱に備わっていないのだ。

 しかし、イノベーションを率いたことがある人なら誰しも知っていることがある。難しいのは、既存事業をうまく運営しながら明日の事業を創出する「両利き」となることだけではない。その先には第3の、もっと厄介な問題がある。それは、会社を過去に縛りつける昨日までの価値観と信念を捨て去ることである。

 私はこの問題に対処するために、35年にわたる世界中の企業との協働と研究を通して、単純かつ実用的なフレームワークを発展させてきた。これはマネジャーがイノベーションを率いる際に直面する、3つの相反する課題すべてを踏まえている。

 その基となる概念は単純だ。未来は水平線のかなたにあるものではない。未来を築く作業は、明日に先延ばししてはならない。未来を手に入れるためには、それを毎日築く必要がある。

 これが意味するのは、過去につくられた特定の信念、前提、慣行を選択的に捨て去るということである。さもなければそれらは、「今日の事業」と「未来の可能性」との狭間に立ちはだかる障壁となってしまう。これが、「スリーボックス・ソリューション」と私が呼ぶものの基本概念である。

 各ボックスで成功を収めるには、それぞれに異なるスキル、姿勢、慣行、リーダーシップが必要だ。諸々の活動と行動様式を各ボックスに照らして、日々バランスをとる。そうすれば組織は、未来の創造を長期的で着実なプロセスにできる。

 それは1度きりの、激変をともなう決死の行為ではない。簡単に言えば、未来とは、今日やること、そしてやらないことによって形づくられるのだ。