リーダーシップ理論の変遷

【入山】最新刊の『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』(日経BP社)でもリーダーシップ研究についてまとめた章があるのですが、いまの理論が行き着いている場所は、やはり藤沢さんの『最高のリーダーは何もしない』の結論とまさに同じなんです。
経営学におけるリーダーシップ研究には半世紀以上の歴史があって、だいたい大きな流れが5つくらいあります。
最初は、リーダーの俗人的な資質みたいなもの。これは説明力がなかった。
次に部下にどういうスタイルでアプローチするか。これもうまくいかなかった。
そのあと、リーダー・メンバー・エクスチェンジ。リーダーと部下それぞれの関係性があるので、同じリーダーがある部下とはうまく関係性を築けても、別の部下とはうまくいかないという考え方です。

【藤沢】へえ!!興味深いです。

経営学的にも「何もしないリーダー」がベスト?<br />入山章栄×藤沢久美 特別対談【前編】

【入山】そしてここ20年のメインは、「トランザクティブ・リーダーシップ」と「トランスフォーメーショナル・リーダーシップ」です。
トランザクティブ・リーダーシップとは、部下の自己意思を重んじ、まさに取引(=トランザクティブ)のように部下とやりとりするリーダーのあり方です。部下に対して「アメとムチ」をうまく使えるタイプと言えばいいでしょうか。
こちらがやや管理型のリーダーである一方、もう1つのトランスフォーメーショナル・リーダーシップは、言ってみればビジョナリーなリーダーのスタイルで、変革を志向するという特徴があります。

【藤沢】私の書籍では後者を強調しましたが、本来的には両方が必要だと思うんですよね…。

【入山】おっしゃるとおりです。今までの研究を総合すると、両方が大事。ただ、相対的にはトランスフォーメーショナル・リーダーシップのほうが大事で、とくに不確実性が高いときこそ重要性が増す、とされています。

【藤沢】環境変化が激しいときには、部下を管理しようとしてもその基準そのものがどんどん変わってしまいますからね。

【入山】おっしゃるとおりです。だからこそ、ビジョンが大切になるということですね。ただ、これは90年代までの話で、2000年代に入ってからは、リーダーシップ理論はやや行き詰まりを見せています。
最近注目されているテーマは3つあります。

1.フォロワーシップ(リーダーへの自律的支援)
2.サーバント・リーダーシップ(まず相手に奉仕し、相手を導く)
3.共有型リーダーシップ(シェアード・リーダーシップ)

【藤沢】サーバント・リーダーシップは私も意識しています。

【入山】3番目のシェアード・リーダーシップも海外で注目が高まっています。これは「全員がリーダー」という考え方で、日本でもよく言及されるものですね。みながリーダーの意識を持って、自律的に動く。統計分析に基づいた最近の研究では、「共有型リーダーシップ」が行きわたっていて、かつ、それぞれのリーダーが「ビジョン」を持っている組織、これが最強の組み合わせだと言われています。

【藤沢】絶対にそうだと思います。あと、今の社会の構造を見ると、会社に所属するのではなく、プロジェクトベースで動く、という機会が多くなっています。ある場所ではフォロワーなのだけれど、ある場所ではリーダー。またフォロワーのようでいて、実はリーダーとか。ですから、フォロワーシップが注目されているという点も、とても自然なことだなと思います。