あくまで新耐震基準は
“最低基準”にすぎない

中林一樹氏 明治大学大学院
特任教授(工学博士)
中林一樹氏

ナショナル・レジリエンス懇談会委員、東京都火災予防審議会会長、日本災害復興学会会長ほか。近著に『災害対応ハンドブック』(法律文化社、共著)

 それでも、こう考える人は少なくないかもしれない。

  「わが家は81年に改正された新耐震基準に適合しているので、どんな大地震でも倒壊しないことには国のお墨付きを得ているはずだ」

 けれど、それも大きな誤解である。新耐震基準とは、震度7級の地震が連続することを念頭に置いたものではない。加えて、その後の余震にも耐え得ることを前提ともしていない。あくまで、最初の一撃(本震による倒壊)で大破しても人命だけは守ることが目的だ。

 「耐震基準は“最適基準”ではなく、“最低基準”にすぎません。実際には、この最低ラインをギリギリ満たした住宅が数多く供給されてきたのが実情でしょう。その上、耐震基準の構造計算には『地域係数』という数値が用いられてきました。過去の地震の頻発度に応じ、多かった地域とそうでなかった地域では、異なる数値が適用されているのです。例えば、東京や大阪が1であるのに対し、熊本の『地域係数』は0.9で、いわば1割引きされた耐震基準になっています」(中林特任教授)

 わずか3年余りの間に新潟県中越地震と新潟県中越沖地震に見舞われた同県でも、やはり0.9という数値が適用されている。同係数は、終戦からまだ7年後の住宅や資材が不足していた頃に、ある意味、苦肉の策として考案されたものらしい。地震の発生頻度の低い地域では、鉄筋の数などを減らしてもいいという合理化策である。

 一方で、かねてから東海地震が警戒されてきた静岡県では、同県独自の判断であえて1.2という「地域係数」を用いて構造計算を行っているという。

増えている“災害の複合化”

 「昨年は地球温暖化の影響から、巨大台風の発生が相次いでいますし、連続して日本に接近するケースも増えています。地震のみならず、連鎖的に発生し得る他の自然災害のことも警戒すべきでしょう。まさに、“災害の複合化”です」(中林特任教授)

 地震の直後に大雨が降れば二次災害が発生するリスクは非常に高い。昨年9月に鬼怒川の決壊を招いた関東・東北豪雨が象徴するように、最近の台風がもたらす被害は単独でも尋常ではない。台風は毎年必ずと言っていいほど日本列島に近づいてくる。台風以外にも、ゲリラ豪雨や竜巻といった異常気象が相次いでいるのも近年の傾向だ。

 地震に伴って発生しがちな火事への耐性も見逃せないポイントだ。追求すべきは、地震は無論、雨にも、風にも、火事にも負けない家だ。

 さらに「企業においてはBCP(事業継続計画)があっても、それを実施して会社を守るのは人だ。社員の住宅を補強し、災害時には人材を確保するという考え方が重要です」と中林特任教授は指摘する。