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海老蔵の取材自粛要請に週刊誌が応じない理由

降旗 学 [ノンフィクションライター]
【第165回】 2016年6月25日
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市川海老蔵氏が記者会見やブログで実家周辺への取材自粛を要請した。メディアはどう対応すべきなのか Photo:AFLO

 市川海老蔵夫人・小林麻央さんの闘病が報じられている。ずいぶんと前になるが、ある狂言師一家に密着したり、七代目市川染五郎さんら歌舞伎役者に取材した際、彼らの幼少時の稽古の厳しささながら、“梨園の妻”の大変さを教えてもらったことがある。

 歌舞伎役者に嫁ぐからには命をかける覚悟がなければ務まらないと言われたほどで、だから麻央さんの回復は私も願ってやまないが、他方、海老蔵氏が要請したという取材自粛のお願いにはちょっと首を傾げているのである。

 〈人の命に関わることです。よろしくお願いします。マオ本人の負担になるような撮影はやめてください〉

 今月十日夜のブログに、海老蔵氏はこう綴った。そして、九日に会見を開き、麻央さんの病状を打ち明けたのは、実家周辺への取材を自粛してほしかったからだと説明する。その後も海老蔵氏は取材陣に自粛を要請する旨を綴り、十七日のお願いで自粛要請は五回を数えるに及んだとのことだ。

 〈多くの記事を目にします。まおのことに関しましては雑誌の方々、静かに見守ってください。よろしくお願いします。何度も何度も申し訳ございません〉(17日)

 海老蔵氏の気持ちは理解しているが、しかし、そこで“はい”と引き下がったら、雑誌メディアは存在意義を失う。と同時に、海老蔵氏はその自粛要請がご自身とメディアとの決別を意味していることを理解しているだろうか?

 取材を自粛もしくは切り上げる条件として、私たち現場の取材者は海老蔵氏にこんなことを申し出るだろう。であれば、今後はご子息の襲名・ご披露に関する取材および舞台・公演の宣伝を自粛させてもらいます、と。これは海老蔵氏だけでなく、すべての芸能人に言えることなのだ。婚約だ結婚だの慶事のときにはマスコミを呼んで幸せアピールに余念がない一方で別居だ離婚だ不倫だとスキャンダルのときは逃げるのはどうなのかと。

 私たちは芸能人や著名人の慶事を報じさせてもらう。おめでたい話は皆で分け合いたいという気持ちがあるからだ。その代わり、祝い事を報じたように、訃報のような不幸をはじめゴシップやスキャンダルも同様に追わせてもらう。それがフェアな報道だからだ。

 海老蔵氏の気持ちを理解したうえで繰り返すが、彼の自粛要請は、このフェアさ、暗黙の了解を反故にする申し出でもあるのだ。書く・書かれるという双方の立場はあっても、書く・書かせないという関係性はないからだ。そんな理不尽があるとすれば、それは言論を封殺する軍事政権国家か彼の大国か北のあの国くらいのものだ。

 取材される側を含め、この理屈がわからない人は芸能界やマスコミで働けないだろうし、それでもなお週刊誌をひどいと思う人は週刊誌を読まなければいいだけの話だ。ワイドショーをひどいと思ったらワイドショーを見なければいい。

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降旗 学[ノンフィクションライター]

ふりはた・まなぶ/1964年、新潟県生まれ。'87年、神奈川大学法学部卒。英国アストン大学留学。'96年、小学館ノンフィクション大賞・優秀賞を受賞。主な著書に『残酷な楽園』(小学館)、『敵手』(講談社)、『世界は仕事で満ちている』(日経BP社)他。


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三面記事は、社会の出来事を写し出す鏡のような空間であり、いつ私たちに起きてもおかしくはない事件、問題が取り上げられる。煩瑣なトピックとゴシップで紙面が埋まったことから、かつては格下に扱われていた三面記事も、いまでは社会面と呼ばれ、総合面にはない切り口で綴られるようになった。私たちの日常に近い三面記事を読み解くことで、私たちの生活と未来を考える。

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