男性があれこれ考えるより
女性に任せるほうが早い

 先入観をもって接しないというのは、女性活用においても重要なことでしょう。男性の場合、女性の多くが「嫌だ」と思う感覚や、出産や子育ての経験について、いくら想像してもわからないことは多々あると思います。

「女性社員がすぐに辞めてしまう」「女性の管理職が増えない」といった課題があるとしたら、それを先入観で判断するのではなく、阻害要因は何なのかを当事者たちに一つ一つ聞きながら、言いづらいことも言葉にしてもらい、拾っていかなくてはいけません。「一般的にはこうだ」ではなく、職場で起きていることを、彼女たちの本心をくみ上げることで把握しなくては、状況は改善しないでしょう。

 正直に言って、私が社長時代には、吉野家における女性活用をやり切れませんでした。そもそも吉野家の顧客が男性中心で、女性の多くがユーザーとしても吉野家を知りません。その状態で入社し、いきなり店舗に配属されても、「恥ずかしい」という気持ちが先に立ってしまうのは仕方ありません。

 企業全般の女性活用でいうと、意思決定を下し戦略を立てるポジションに就く女性が増えると、変化が加速すると思います。男性があれこれ考えるより、女性に任せてみて、どういう風に強み・弱みを補い合えるのかをやってみながら考えていくほうが、建設的ではないでしょうか。

 外国人、女性とのコミュニケーションに限らず、企業風土として「立場を超えてものを言える」雰囲気があるかどうかは、ダイバーシティ実現のカギを握ります。当社はまさに年齢・立場を超えてモノを言い合える風土があると自負しますが、それは一度倒産したという歴史が関係しています。

 吉野家が会社更生法を適用された後、文化の全く異なるセゾングループの後ろ盾で再生を図りました。保全管理人として就任された弁護士の増岡章三先生、今井健夫先生と一緒に経営陣がもう一度、吉野家の商売の本質を見直して、立て直していかなければいけなかった。そんな状況でしたから、お互いに口幅ったいことも腹を割って話をして疑問や不安を極力減らし、将来を考えていくということをみんながやっていました。

 特に私はそうだったし、社長になってからも同様に、社員にできる限りわかりやすく、吉野家のDNAや戦略、目指すべきことを伝えてきたつもりです。部下が先輩や上司に質問をするのは失礼だとか、異論を言ったら評価されないとかいう体質は、そのころからの企業風土としてありませんでした。必死に企業再生に向かう中で、余計な忖度をする暇がなかったのが、功を奏したといえますね(笑)。

 現場の社員が疑問や迷い・不安を持たず、正しい目的意識と手段をもって業務に専念できること。本来、上司と部下のコミュニケーションはそのためにあるのです。国籍や性別の違いを乗り越えるダイバーシティも、組織におけるコミュニケーションの根本的な意味を理解していれば、自ずと実現できていくはずです。