10年8月下旬に、食品安全庁(仮)というものを新たに設置するという新聞記事が掲載されていた。「官僚組織の焼け太りだな」と思った人も少なくないだろう。「焼け太り」というのは、火事によって保険金を受け取ることにより、以前よりも生活が豊かになることをいう。

 食品業界の偽装表示事件がなくならないことから、官僚組織がここぞとばかりに権限を拡大するチャンスを得たようだ。食品の安全を図るのであれば既存の消費者庁を強化すればいいはずなのだが、その消費者庁のもたつきぶりを奇貨として、別組織を作るところが見事な焼け太りだ。

 こうした官僚組織の肥大化はともかくとして、食品安全庁や偽装表示事件の記事に触発されて、「今回は食品業界を取り上げてみよう」と思い立った次第である。対象企業は、キッコーマン、味の素、キユーピー、ハウス食品、ニチレイ、日清食品(証券コード順、敬称略)の6社である。日清食品については前回コラムで扱ったので、今回はスーパーサブの位置づけとする。

味の素は減損で不安定な業績推移に
伝統的指標は、業績と株価が連動しない

 手始めに6社についての伝統的ROE(自己資本利益率)と、伝統的PER(株価収益率)の推移をそれぞれ〔図表 1〕と〔図表 2〕に示す。「伝統的~」という冠を付けているのは、後ほど、これらとは異なる指標を紹介するためである。

業績不安定でも売上高・総資産1兆円超だから安心?<br />キャッシュフロー分析で味の素の実像に迫る

 〔図表 1〕と〔図表 2〕が見づらいのは、味の素とキッコーマンの変動ぶりが大きいことによる。「ノイズ」が特に大きいのは、味の素だ。同社については本コラムの後半で扱うように、かなり不安定な業績推移を示している。要因として、のれんの償却や、アミノ酸関連の工場設備に係る減損損失の影響が大きい。

 その損失規模は、09年3月期で243億円、10年3月期で193億円にものぼる。後掲の〔図表 10〕と〔図表 12〕において、緑の枠で囲った箇所で改めて確認する。

 こうした特別損失は、四半期ごとに4分の1ずつ計上されるものではなく、期末日が属する第4四半期に一括計上される。そのために、大きなノイズを発生させるのだ。当期純利益や包括利益が、業績評価の指標として嫌われる理由でもある。

 そうしたノイズを無視して〔図表 1〕をぐっと睨んでいると、味の素とハウス食品を除いた4社の伝統的ROEは、09年以降、上昇傾向を示しているように見える。ところが、〔図表 2〕の伝統的PERは右下がり傾向を示している。食品業界では、業績と株価は連動しないようだ。これもデフレ不況のなせるワザだろうか。

 いずれにしろ、〔図表 1〕の伝統的ROEや、〔図表 2〕の伝統的PERを参照しただけで食品業界に投資しようという人は、少数派といえるだろう。