『週刊ダイヤモンド』7月16日号の第一特集は、「EU分裂は必然! 混沌を読み解く 大経済史」です。英国のEU離脱問題は世界中を混乱させていますが、実はその裏でもっと大きな変化が深く静かに進行しています。ニュースだけを見ていたら、ダメ。今こそ、歴史に学ぶ必要があるのです。

 

 6月23日の国民投票。世界中の多くの予想を裏切り、EU(欧州連合)離脱という選択をした英国民。金融業界関係者のみならず一般の人まで含めて、大勢が残留と予想していただけに、大パニックとなった。

 主要市場で結果判明後最初に開かれた東京株式市場では24日に日経平均株価が前日比1286円も下がり、リーマンショック時を上回る約16年ぶりの下げ幅を記録。続いて、世界中の株式市場が下落することで、たった1日で世界から200兆円が吹っ飛んだ。また、円の対ドルレートは一時99円を付け、円高が一気に進展した。

 今回の離脱選択による影響が、100年に1度といわれたリーマンショックに匹敵するのかと問うと、金融業界関係者の間からはこんな冷静な声が返ってくる。
「大きな銀行が破綻したりしていない。つまり、金融システムにショックが飛び火していないから、リーマンのようにはならない」

 一方で、世界のヘッジファンドの動向に詳しい、パルナッソス・インベストメント・ストラテジーズの宮島秀直社長は「第一波としてはリーマンショックよりも打撃が大きい。今回のショックはリーマン級となる可能性が高い」とした上で、第一波を上回る下落が最低2回は金融市場を襲う可能性を考える必要があると説く。
決して安心はできないのだ。何しろ、リーマンショックや過去の世界の危機が起こった際も、事前に予測をしていた業界筋や知識層は少数派だった。

 危機は日本企業にも忍び寄っている。英国に進出している日本企業は343社、759拠点にもなる。特に、EU市場全体を攻略するための拠点を英国に置いている日本企業は多い。それが、EU離脱により英国からの輸出に関税がかかるようになれば、大問題。

 日立製作所がその典型で、鉄道事業の本社と工場を英国に置き、その工場からEU全域へと輸出する算段だった。日立は、経営の主軸に鉄道事業を置いているだけに見直しは必須となる。

 世界を大混乱に陥れた離脱を自ら選んだにもかかわらず、早くも英国民の間には後悔のムードが広がっている。すでに、見直しを求める署名が400万人分も集まっているのだ。一部には、法的には国民投票の結果を政府は無視することも可能だから、離脱しないのではという指摘もあるほどだ。

 さらに、離脱派も一枚岩ではない。残留派で辞任を表明したキャメロン首相のライバルであるジョンソン氏は離脱派の中心人物であり、次期首相の有力候補だった。ところが、大方の予想に反して、保守党の次期党首選には立候補しないことを表明。続いて、独立党のファラージ党首も辞任を表明し、離脱派を落胆させた。

 残念なのは、投票後に移民に対して口汚くののしったりするような、いわゆるヘイトクライムが増加していることだ。かつて、世界を制した英国のレベルはここまで落ちたのかと落胆している日本人も多いだろう。まさしく、今、英国は混迷の極みにあるといえる。

 この混迷の先に何があるのか。結局のところ、多くの人は「08年のリーマンショックを上回るのかどうか」を心配しているはずだ。

 しかし、数百年後から今を振り返れば、リーマンショック並みかどうかということはさまつな問題に見えるかもしれない。

世界で共通する
多くの問題が示す
歴史の大変化

 英国の離脱騒動を、リーマンショック並みかどうか、経済危機が連鎖するかという点に固執して見詰めていると、本質を見誤る。

 実は、今、あなたは数百年に1度の歴史の大転換期に立っているのだ。識者の中には資本主義が終焉するという意見の人もいる。

 歴史を振り返ると、その時々の超大国、あるいは世界全体のシステムを終焉に追い込んだような出来事があるが、今、似たようなことが、世界で起こっているからだ。例えば、大きな人口移動や、情報技術の革新、国家の財政破綻、市場の飽和などが同時多発的に起こっている。

 今回の英国の離脱騒動もその一つで、大転換期故のイベントといえる。その証拠に、実は離脱を選択した英国民が抱える問題は、世界全体に共通するものなのだ。
製造業の衰退、移民の増加、貧富の差の拡大、エリート層の堕落、扇動政治家の登場……。

 振り返れば、大航海時代や、重商主義、資本主義、民主主義、共産主義など、さまざまな時代や思想を人類は経験し経済を拡大あるいは縮小させてきた。今の資本主義がいつまでも続くという保証はどこにもない。そればかりか、今回の英国のEU離脱が、水面下で起こっている構造の変化を加速するかもしれない。

 特集で詳細を述べるように、日本や海外の多くの賢人たちが、今が数百年ぶりの歴史の大転換期であるという意見を持つ。人類はGDP(国内総生産)を拡大させてきたが、それは今後も続くのだろうか。それとも横ばいの安定期に入るのだろうか。

 資本主義が終焉する可能性すらあるといっても、共産主義が再び息を吹き返すというわけでもないだろう。多くの識者は次にどのような時代が来るのかは、明確には提示していない。

 むしろ、歴史的見地を持ち、予測し備えることで、あなた自身が新たな時代を形成していくといえる。そのためにも、本特集を読んで歴史の賢人となってほしい。

ニュースの表層に流されないよう
歴史を知って大局観をつかもう!


『週刊ダイヤモンド』7月16日号の第一特集は、「EU分裂は必然! 混沌を読み解く 大経済史」です。

 英国のEU離脱騒動により、世界中が混乱しています。しかし、あまりに多くのニュースや予測が流れ、情報の洪水のような状況に辟易としている人も多いのではないでしょうか。

 そんな時には、歴史を学ぶことが最も効果的です。歴史を学べば、EUのみならず、今起きている世界や日本の問題に対して、「そういうことだったのか」と腹落ちすることができると思います。

 また、今が数百年に一度の歴史の大転換にあると指摘する識者も多いため、大局観をもって自分がどんな時代にいるのかを掴んでおくことが大事になりますが、そのためにも、歴史に学ぶ必要があるのです。

 そうすれば、日々、目にするニュースも、違ったように見えてくるはずです。
ここでは全てを紹介することはしませんが、市場動乱史、通過興亡史、金融政策史、バブル再発史、欧州統合史、覇権交代史、通商挫折史、民族大移動史、自動車盛衰史、扇動政治史などなどてんこ盛りです。

 そのどれもが、単純に「ああ、こうやって欧州は統合したのか」というように事実を知ることができるだけでなく、今に通じる教訓や、大局観を掴むためのヒントにあふれています。

 大きな地図や年表、フローチャートなども多用しているので、ビジュアルにわかりやすく全体像を把握可能です。また、ブックガイドやこの混迷期でも買うべき銘柄141なども掲載しています。

 歴史の賢人になれる大特集、是非、ご一読くださいませ。
(『週刊ダイヤモンド』副編集長 清水量介)