親が知らない息子の秘密!

 白髪まじりの頭髪に肩を丸め、いかにも気の弱そうな、痩せた初老の男が斎場の門をくぐって行った。突然の交通事故で大学生の息子を亡くし、うちひしがれた両親が、次々に来る弔問客にその都度丁寧に挨拶している。男も静かに参列し、順番を待ち、焼香した。

 男は焼香が終わると、しばらくその場に身を置き、葬儀の様子を見守っていた。列もなくなり、ほとんどの弔問客は奥座敷で亡くなった若者の思い出を語らいながら、出された料理に箸を伸ばしている。

 男は、突然動き出し、真っ直ぐに両親に歩み寄って、母親に耳打ちしたあと、胸元から何かを取り出して渡した。母親は肩をふるわせながら涙し、父親は、何度も男に頭を下げている。

 男によれば、この両親の息子は、両親に何かプレゼントを買ってあげたいとの思いから、この男が社長をやっている会社で、アルバイトとして1週間前から働いていたという。びっくりさせたいと考えていた息子は、当然、両親にはアルバイトの話をしていない。

 男の会社は○○学習センター群馬支部で、著名な学習センターのフランチャイズ店である。群馬県の各拠点にある教室で多くの学生に勉強を教えているが、その教材をほぼ毎日バイクで、各拠点の教室に運ぶアルバイトを雇っている。

 亡くなった息子は、このアルバイトとして採用され、昨日交通事故で不運にも亡くなってしまった。男は1週間分のアルバイト代をこの息子に代わり、香典とともに両親に渡しに来たのだった。両親は男から、親孝行な息子の話を聞き、涙することになった。

 男は、息子の会社の登録を抹消したいので、書類に判子を押してほしいと母親に頼み、内容もよく読ませないまま、紙の下にある捺印場所に押印させた。書類を確認した男は、きびすを返すと、一度も振り返らず、足早に斎場を出て行った。