「グローバルに働く」とは、「海外で働く」ことではない

ムーギー ひとことで「グローバル」とか「多様性」と言って頭でわかった気になっても、経験しているとしていないのでは理解度がまったく違いますからね。

高宮 MBA中ずっと「そもそもグローバルってなんだろう」とあらためて考えたんですよね。海外で働くことではなく、世界をつなげるのがグローバルだという結論に至りました。アメリカでインターンをしてみたら、アメリカで働くことは、アメリカのローカルでしかない。「本当にグローバルであること」は複数の国の間の橋渡しをすることなんじゃないかと。そして、がんばれば異国ではたらくマイナスをゼロにできるかもしれない。でも、自分の日本人としてのバックグラウンドは活かせない。だったら自分は、日本をベースに日本発のいいものを世界に伝えることが、自分が出せる価値を最大化できると思ったんですよね。

ムーギー 高宮さんはベンチャーキャピタリストになられてから、ずっと「日本発世界へ!」というメッセージを発していますよね。そのテーマを見つけられたことこそ、幼少期に海外を経験したことの最大のメリットかもしれませんね。

高宮 その中で、親が単なる言語としての日本語だけでなく「日本の文化」をバックボーンを植え付けてくれたのは大きいと思います。しっかりとした文化的バックボーンを持つことは、グローバルな活動をする上で大切だと思っています。海外にでると、必ず日本のことを聞かれます。日本のこの文化はどうなんだとか、この習慣はどうなっているんだとか、日本を語りコミュニティに貢献することを求められます。日本であれどこであれ、どこか一国のバックボーンがないと、「グローバル」という漠としたものを相対として捉えることができず、グローバルで貢献しづらいと思います。

コンプレックスの裏返しで、「自己肯定感」を身につけるために「故郷」に貢献したい

ムーギー では、幼少期を海外で過ごすデメリットはなんでしょうか?

高宮 海外も田舎のほうに行くと、グローバルどころか日本よりひどいムラ社会のところもあります。そんな町に日本人が行くと、いじめられたり差別に遭うこともあります。

ムーギー 高宮さんも、いじめられた?

高宮 ええ、ご多分に漏れず(笑)。ポジティブに捉えれば、差別を経験したことでストレス耐性が高まったかもしれません。一方で、そんな理不尽な経験はしないに越したことはないというのもあるでしょう。

ムーギー 私もいろいろなタイプを見てきましたが、海外でいじめられて「なにくそ!」と発憤して努力につなげて大物になった人もいるし、劣等感に潰され、対人恐怖症になった人もいます。そこは親が子どものタイプを見極める必要があるんでしょうね。

高宮 そうですね。僕自身、帰国子女コンプレックスみたいなのを持っているんですよ。イギリスが長かったのですが、「第2」の故郷という感覚はあるんですが、「ここが生まれ故郷だ」とは決して言えず。向こうにいるときは強烈に日本に憧れていました。「ホームである日本に帰れば、みんな自分と同じで100%受け入れられるのに」って。でも、日本に帰ってきてみると、自分はずっと日本にいる人とも違った。帰ってきたら、帰ってきたで、違和感を感じてしまったんですね。

ムーギー ああ、受けた教育が違えばそうなるでしょうね。英語力も、ものの考え方も。

高宮 結局、イギリスと日本、どっちにいてもアウトサイダー。なんかコミュニティに同質化できない疎外感があったんですよね。そこで、日本に貢献すれば、日本で仲間として受けいれてもらえるんじゃないかと思い、VCになって日本の産業を盛り上げ、日本の良いものを世界に出すことで、日本に貢献したいと考えるようになりました。

ムーギー 日本にいながらグローバルな舞台で仕事をすることに決めたのは、コンプレックスの裏返しだった、と。

高宮 そうですね。コンプレックスのせいで自己肯定感が低いというのかな、自分に対する絶対的な自信がずっと持てなくて。前職ではとくに、そこを補うために駆り立てられるように努力していた部分はありましたね。いまでこそ昇華されたけれど。

ムーギー ええっ、それはぜんぜん気づきませんでした。きらびやかな経歴だし、仕事も第一線で活躍されているし、高宮さんの自己肯定感が低いなんてかなり意外です。いや、私は自己肯定感の塊のようなところがあるんですが……。

高宮 あ、確かに、ムーギーは自己肯定感の塊ですね。というか、自信過剰?!(笑)

ムーギー でも、そう育てたのはミセス・パンプキンですからね(笑)。『一流の育て方』のアンケートでも、「無償の愛で自己肯定感を育ててくれた」と感謝している学生の声が多数寄せられましたし、僕も母親には感謝していますよ。

(後編は7月25日に掲載予定です)