「相手のために何かをしてあげたい」という思いに従うだけ

 このスキルのキーワードは「自己欺瞞」です。「自己欺瞞」という言葉の意味は、自分で自分の心をあざむくことですが、アメリカ、ソルトレイクシティに拠点を置く研究所「アービンジャー・インスティチュート」では「自分の小さな箱に入っている」と呼んでいます。

 相手のために何かをしたい、するべきだと思いながらそれをしないままでいることは、自分に対する裏切り行為です。そんな自分を正当化するために、人間は「相手が悪い」と思い込むようにできています。これが自己欺瞞です。会社の設立当初、私が陥っていた状況がまさにそうです。

 自己欺瞞に陥ると人間関係が悪化します。自分が正しくて、相手が悪いことの根拠を集めることに気持ちが奪われていくのです。しかも、この自己欺瞞は、細菌のように周囲にも感染します。これは、私のまわりの社員たちも、私と同じ考えを持っていたことに似ています。

 自己欺瞞に陥ると、関係は悪くなるばかりです。

「君のことを大切に思っているよ」

  といくら口でいいことを言っても、その欺瞞はすぐに見破られてしまいます。

 大事なのは心です。「相手のために何かをしてあげたい」という思いに素直に従いさえすればいいだけです。そうすれば、自己を正当化する必要はなくなります。相手に悪意を持つこともなくなり、良好な人間関係が保てるのです。

 仮に、人間関係が改善できなかったとしても、自己欺瞞に陥るメカニズムを理解していれば、ストレスで悩むことは防げます。

自己欺瞞に陥ってしまうメカニズム

 人が自己欺瞞に陥ってしまうメカニズムはこうです。たとえば、入社した当初は誰もが「最善を尽くして働こう」という感情を持っています。ところが1年もするとその感情はすっかり変わってしまうのです。

 私たちは自分の感情を選択することができます。「最善を尽くして働こう」という感情を尊重するか、背くかです。1年後もその感情を尊重していれば、あなたは意欲的に働き、箱の外にいることができます。

 しかし、背いた場合、それは自分への裏切りになるのです。そのとき、自分の気持ちを正当化するために、同僚や上司や会社に対する考え方のほうを歪めてしまいます。そして、「ひどい管理職」「ひどい職場」「思いやりのない同僚」と見るようになってしまいます。