疲労は「疲労感」という脳現象である

「スーパー!!いい質問じゃ」

ヨーダは満面の笑顔で答えた。「身体的な疲れはいろいろな形で現れる。イライラする、やる気が出ない、集中できない、なんとなくだるい、物忘れが多い、昼間も眠い……などなどじゃ。普段ならぶつけないようなところに身体をぶつけたりするときも、疲労が溜まっとるサインじゃ」

残念ながらヨーダがあげた例は全部、私に当てはまる。

「疲労についての科学的データはあまり多いとは言えんが、運動やヨガ、TMS磁気治療や薬物治療などに加えて、マインドフルネスや認知行動療法の効果も報告されておる。認知行動療法というのは、カウンセリングなどを通じて疲労の捉え方を変えて、疲労とうまくつき合う術を学んでいく方法のことじゃな。

ここで重要なのは、身体の疲れすらも、筋肉などの物理的な消耗としてだけではなく、『疲労感』という脳現象として捉えるアプローチが取られていることじゃ。重度の疲労感を持つ慢性疲労症候群の患者を対象にしたメタ解析では、運動指導と同じくらいカウンセリングが有効だという結果が出たという[*2]。線維筋痛症や多発性硬化症といった疾患は重い疲労感を伴うことで知られておるが、うつ病と同じく左前頭葉へのTMS磁気治療が効果的だったとの報告もある[*3]。そして、ロバート・シンプソンたちの2014年のメタ解析では、マインドフルネスが多発性硬化症患者の疲労感を改善した事例が紹介されておる[*4]。

*2 Smith, ME Beth, et al. “Treatment of myalgic encephalomyelitis/chronic fatigue syndrome: a systematic review for a National Institutes of Health Pathways to Prevention Workshop.” Annals of Internal Medicine 162.12 (2015): 841-850.
*3 Knijnik, Leonardo M., et al. “Repetitive Transcranial Magnetic Stimulation for Fibromyalgia: Systematic Review and Meta - Analysis.” Pain Practice (2015).
 Palm, Ulrich, et al. “Non-invasive brain stimulation therapy in multiple sclerosis: a review of tDCS, rTMS and ECT results.” Brain Stimulation 7.6 (2014): 849-854.
 Tendler, Aron, et al. “Deep Repetitive Transcranial Magnetic Stimulation (dTMS) for Multiple Sclerosis (MS) Fatigue, Irritability and Parasthesias: Case Report.” Brain Stimulation: Basic, Translational, and Clinical Research in Neuromodulation 7.5 (2014): e24-e25.
 Schippling, S. et al. 29th Congress of the European Committee for Treatment and Research in Multiple Sclerosis (ECTRIMS). Abstract #165. Presented October 4, (2013).
*4 Simpson, Robert, et al. “Mindfulness based interventions in multiple sclerosis-a systematic review.” BMC Neurology 14.1 (2014).

身体の疲れすらも、癒しのメインステージはやはり脳なんじゃよ。マインドフルネスとTMS磁気治療、いずれも実際に受けた人々は、まず『頭がすっきりした!』と口を揃えて言うのも興味深いポイントじゃな。

ちなみに、アメリカで『5-hour ENERGY』という高カフェインのエナジードリンクが大流行したあと、死亡例が出たりして問題になったのを知っておるか?皮肉にも、そのドリンクをヒットさせたインド系アメリカ人の創業者は、毎日1時間、地下室で瞑想をしとるらしいぞ。身体の疲れはエナジードリンクなどでは癒せず、脳へのアプローチが必要だと知っておったのかもしれんな[*5]」

*5 Ross, Christopher. “A Day in the Life of 5-Hour Energy Creator Manoj Bhargava.” WSJ. Magazine Nov. (2015): 101-102.

「なるほど」

私は頷いた。「結局は脳と心の問題だということですね」

ヨーダは右手を小さく挙げた。

「いや、もちろん認知を変えることがすべてではない。睡眠、運動、食事といった要素が、休息の基盤になることは忘れちゃいかんぞ」