英国民が国民投票でEU(欧州連合)離脱を選択してから1カ月が経過した。英国の新首相には移民抑制を訴えてきたテリーザ・メイ氏が就任し、市場の不透明感はひとまず払拭された。

 ただ、英国が移民抑制問題で譲歩しない限り、英国とEUの貿易をめぐる交渉は非常に厳しいものになると予想され、英国の景気悪化と通貨安のリスクが再度意識されていくことになるだろう。

 とはいえ、EUに対する離脱通知は来年となるもようで、当面、英国のEU離脱の負の影響を肌で感じることは難しい。当初より英国のEU離脱の影響が小さいとみられてきた米国では、むしろ第2四半期の景気のリバウンドが目立つ格好だ。ニューヨークダウなどの株価が史上最高値を更新するのもうなずける。1.3%まで低下した米国10年債利回りも反転し、それに連動してドル円が上昇するなど、市場の景色も変わってきた。

 米国の金利上昇のきっかけとなったのが、6月雇用統計における雇用者数の劇的な改善と賃金の上昇。FRB(米連邦準備制度理事会)が、中国やIMF(国際通貨基金)などの反対を押し切って2015年12月に利上げしたのも強い賃金上昇圧力を背景としたものだった。今回も市場で利上げ期待が復活した。

 しかし、英国のポンドが大きく下落し、ドル指数が押し上げられている状況下での米国の利上げは、ドルの強い上昇を介して新興国経済に再度の悪影響を及ぼしかねない。また、ドル指数と逆相関の関係にある原油価格の下落は、「産油国」である米国自身にも負の影響をもたらしそうだ。

 英国のEU離脱による実体経済への影響が今後少しずつ出てくることを考えても、最終的にFRBが利上げに踏み切れるかどうかは微妙なところ。あといくばくかの利上げ期待が高まったときが、米国の中長期債利回りのピークとなる可能性が高いといえそうだ。マイナス金利政策の下、資金運用難に見舞われている日本の投資家や欧州の投資家に、比較的高い利回りで米国債に投資できる最後のチャンスが訪れることになるだろう。

「長期金利は将来の短期金利の期待値で決定される」という純粋期待仮説に基づいて米国10年債利回りを計算すると、今後1年間で1回の利上げが織り込まれれば1.6%程度、2回の場合は1.7%となる。

 現時点では「英国のEU離脱の影響は軽微」との雰囲気が広がっており、米国の利上げも可能であるとの思惑につながりやすい。さらなる利回り上昇による債券価格下落を恐れる投資家も多いだろう。ただ、長い目で見れば、次なる金利上昇局面での米国債への投資が最も望ましいと考えている。

(SMBC日興証券為替・外債ストラテジスト 野地 慎)