“マス”と“デジタル”は何が違うのか

――さまざまな変化が起きているようですが、企業の経営層には「デジタル時代のマーケティング」というテーマは「わかりづらい」といった印象もあるようです。

江端 生活者とのコミュニケーションでいえば、従来のマスメディアでの広告展開ならば、わかりやすいのでしょうね。

ではデジタルは何が違うのかと問われたら、私は「完成品の追求か、改善の繰り返しかの違いだ」と説明します。ウェブなどのコンテンツは、テレビCFと違い、「5分やってみてダメだったら中身を変えてしまえばいい」という発想が通用します。逆に言えば、生活者の反応を見ながら、いくらでも改善できるというわけです。  

 

 

 

 

 

藤田 私もよくクライアントのトップから質問されます。要は「どっちがいいか」ではなく、江端さんの言われているように「質が違う」。私の場合、「だから、どう組み合わせていくか考えましょう」と提案する立場。本質部分の違いさえ理解できれば、技術的なディテールまでトップが理解する必要はありません。

私が必ず使う答えは「マス広告はフローでデジタルはストック。ポイントは両者をどうインテグレートするか」です。日本コカ·コーラさんのマーケティング戦略は、その部分が非常に巧みですね。

江端 ありがとうございます。私も藤田さんと同意見、組み合わせることが重要ですよね。マスはホームランバッターだけれども三振する場合もあります(笑)。コカ·コーラ パークのようなデジタルメディアはイチローのように、こつこつとヒットを重ねていくタイプ。どちらのタイプの選手もチームには必要なのです。

新たなマーケティングをリードする人材が必須

――では、最後に経営視点に立ったときの課題について教えてください。

藤田 「デジタル時代」は、「人はネットしか見ない時代」ではなく、「デジタルも含めて企業と生活者とのタッチポイントが複雑多様に増えていく時代」です。だからこそ、すべてを俯瞰して見ることができる人材、一つひとつの事象を関連づけて経営課題として見通せる人材が必要になると思います。

江端 マーケティングもテクノロジーも、マスメディアもデジタルコンテンツも、なんでも細かくわかっている人間なんて、そうそういませんよね。欧米企業ではCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)の存在が大きくなっていますが、私としては「全体像をそれなりに理解しているリーダー」が社内にいるのならば、そうした人材がスペシャリストに権限を与えて任せることも、これから重要になってくると思います。

藤田 CMOにせよ、エンジニアにせよ、今後は間違いなく必要不可欠になります。人材をいかに育てるか。それが成果や経営にダイレクトにかかわってくる時代がすぐそこまで来ています。

 

※この記事は「週刊ダイヤモンド」2010年10月30日号でもご覧いただけます