ビジネス説得学辞典
『ビジネス説得学辞典』内藤誼人[著]定価2100円(税込)

 英語の学習を開始するとき、「辞書をひきなさい」とは、よく言われることである。しかし、ある程度、英文に習熟し、読みなれてくると、たいていの人は、あまり辞書をひかなくなる。辞書をひかずとも、文脈からおよその意味が推測できるようになるし、なにより辞書をひくのが面倒臭いと思えてくるからである。その意味では、英語の辞書を本当に必要としているのは、何よりも初学者であるといえる。

 英語に限らず、およそあらゆる辞書というものは、“初学者”のためにあるものだと言ってよい。その分野について、これから学んでいこうとする初学者の道しるべとして利用できることこそ、辞書の辞書たる所以であり、その存在価値であると思われる。

 ところが、辞書のなかには、初学者にとっては、何を言っているのかさっぱりわからない説明をしているものも少なくない。とりわけ専門的な辞典はそうである。ある概念がわからなくて辞書をひいたというのに、まるで理解できないのである。説明のために使われている文章からして、すでに難解極まりないことが多く、ある程度、その分野についての概論書や教科書を読み込んでからでないと、一読して理解することが困難になっているのである。これでは何のために辞書が存在するのかわからない。

 たとえば、筆者の手元にある辞典のなかから、試みに「社会的規範」という言葉をひいてみると、およそ次のような説明が載せられている。

 「内面的文化としての価値体系は、社会成員の行為を通して発現し具象化される。この意味の価値の発現態ないし具象化された様式が社会的規範である…(以下略)。」

 この説明を読んで、すぐに納得できる人は、おそらくすでにかなりの専門書を読んでいる人だろうと推察される。初学者には、「内面的文化」とか「価値体系」とか「発現態」などという耳慣れない単語で説明されても、よくわからないのではないかと思う。

 実際のところ、「社会的規範」というのは、他の人からそうするように期待されている社会的ルールのことであり、たとえば、「電車内では携帯電話の利用をやめましょう」といったルールを指す。