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だれが「スポーツ」を殺すのか ~暴走するスポーツバブルの裏側~

海外流出防止の「ドラフト規制」は
選手への嫌がらせだ

谷口源太郎 [スポーツジャーナリスト]
【第9回】 2008年11月10日
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 10月30日のプロ野球・ドラフト(新人選択)会議で焦点になったのは、社会人野球・新日本石油ENEOSの田沢純一投手が指名されるかどうか、ということだった。周知のように田沢選手は、大リーグへの挑戦を表明し、球界に対してドラフト会議で指名しないように要望していた。球界側は、ドラフトを拒否して大リーグを目指すとはけしからん、と怒りを爆発させ、9月に急遽、海外流出防止策として新たな規約づくりを始め、次のような内容を固めた。

 「ドラフト指名を拒否し、直接海外のプロ球団と契約したアマチュア選手は、海外球団退団後も、高卒選手は3年間、大学・社会人出身選手は2年間、日本のプロ球団入りを認めない」

大人気ない球界の対応に
各所から批判も

 球界は、この新規約を田沢選手にも適用する方針を明らかにした。田沢選手に脅しをかけ、嫌がらせをするような球界のやりかたは、どうみても大人気なかった。当然、「選手の意思を否定するものだ」と、球界に対する批判の声が上がった。なかでも厳しかったのは、朝日新聞。10月19日付の社説で、次のように批判した。

 「人材流出の悩みは理解できるが、ずいぶんとけち臭いルールをつくるものだ。(略)嫌がらせのような泥縄式のルールは、すぐに白紙撤回すべきだろう」

 同日付の毎日新聞は「闘論」欄で、球界を代表して山中正竹・横浜球団常務と田沢選手を支持する大久保秀昭・新日本石油ENEOS監督の両氏を登場させ、それぞれの言い分を掲載した。山中氏は、球界の言い分を次のように表した。

 「ファンから『了見が狭い』と言われかねないことは承知しているが、対象となるのはドラフト指名を拒んだ上で海外のプロ球団に入った選手だ。プロ野球の振興とビジネス・興行面での隆盛を図るため、優秀な人材の海外流出を抑止し、日本野球を守る制度を作ることは、球団経営に携わる人間にとって当然だ」

 これに対して大久保氏は、田沢選手の意思を尊重すべきだ、と強調する。その理由として重要な指摘をしている。

 「投手として未完成の田沢が、さらなる成長を遂げるには日本より米国の方が適している。日本のレベルが低いと言っているのではない。米球界はトレーニング部門が充実しているうえ、田沢の弱点である精神面も鍛えられるだろう。厳しい環境を乗り越えれば、野茂英雄、松坂大輔といった大投手への道も開けてくるはずだ」

 「このようなルールを作る方向に進んでしまったのは残念だ。自分を成長させたいという純粋な気持ちが受け入れられず、プロ側から『裏切り者』のような扱いをされる田沢本人もかわいそうだ。(略)球団の利益だけを追求するのではなく、人材育成を含め球界全体の発展につながるような道を歩んでほしい」

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谷口源太郎 [スポーツジャーナリスト]

1938年鳥取市生まれ。講談社、文芸春秋の週刊誌記者を経て、フリーランスのスポーツジャーナリスト。スポーツを社会的視点からとらえた批評をてがける。市民の立場からメディアを研究する「メディア総合研究所」会員。フェリス女学院大学非常勤講師。著書「スポーツを殺すもの」(花伝社)、「巨人帝国崩壊」(花伝社)、「日の丸とオリンピック」(文芸春秋)など。


だれが「スポーツ」を殺すのか ~暴走するスポーツバブルの裏側~

底の浅いスポーツ報道に高騰する放映権料、エージェントの暗躍やスポンサーと協会の利害関係、そしてスポーツを利用する政治家まで。スポーツは純粋な「競技」から、完全に「ビジネス」と化した。スポーツを殺したのは一体誰なのか。暴走するスポーツバブルの裏側を検証する。

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