しかし、わたしはこの土地に恋し、恋は心を狂わせた。「そうかー、じゃあ、農家になるにはどうしたらいいんだろう」と真面目に検討することにしたのです。

 まず、今回の土地取得に関しての疑問を、整理してみました。

(1)この物件には、「農地=田、畑」と「農地以外=宅地、山林、原野など」がある。農地以外の部分はすぐに手に入るのに、農地だけはすぐ手に入らないとき、どういう売買契約になるのか?(契約時の問題)
(2)農家資格の取得にはどれくらいの時間を要するのか?(契約後農地取得までの問題)
(3)実際、わたしたち家族だけで営農できるとは思えない。資格を取るまでも、その後も、土地を荒らさず管理するための助っ人が必要になるのではないか?(農地取得以降ずっとある問題)

 つまり、農地を持つことに対しては「切り抜け、逃げ切り」のようなマインドは通用しないということです。自分たちがこの土地を持つのに相応しい人間かどうか、ずっと示し続ける必要がある。このしんどさに、わたしたちは耐えられるのだろうか?

「あの土地なら、しんどさを上回る喜びがあるはず」

 そう腹をくくったのは、実は、他の房総物件を見に行くという浮気中のことでした。あの土地に固執しなければ、ひょっとしたら他にも出合いはあるんじゃないか、振り出しに戻ることもアリじゃないかと、いくつかの物件を見に行ったのです。

 そしてそのとおりに、農地でない土地、高台のまとまった平地、「これこそが文句のつけようがない、あなた様のお望みの土地でしょう!」と興奮気味に紹介された土地もありました。

 でも、わたしたちの心はむしろ、西に広がる段々畑の風景や、こどもたちが喜び勇んで走りまわる姿の記憶に引き戻されていく。

 これがたぶん、恋というものなのだと知りました。辛くても忘れられないのです。もう他は見ず「三芳の8700坪の土地を入手するために頑張る!」と、心に誓いました。

 そうと決めれば、あらゆるリスクや未来の困難を並べたてて悩むプロセスもすべて「やっぱり、わたしたちにはあの土地しかない!」と駆け落ちを決意するための段取りだったと思えてくるから不思議です。

(第11回に続く)