橘玲の日々刻々 2016年8月16日

スタジオジブリの元プロデューサーの発言は女性差別か?
[橘玲の日々刻々]

 すこし前のことですが、スタジオジブリのアニメ映画『思い出のマーニー』などの元プロデューサーが、英紙ガーディアンで女性差別的な発言をしたとして問題となり、ネット上で謝罪する騒ぎが起きました。

 ジブリアニメはこれまですべて男性監督でしたが、ガーディアンの記者から、「今後、女性監督を起用することはあるのか」と問われ、元プロデューサーは、「女性は現実的な傾向があり、日々の生活をやりくりするのに長けています。一方、男性は理想主義的な傾向があります。ファンタジー映画には、そうした理想主義的なアプローチが必要です」として、「女性監督にファンタジー映画をつくれない」ととられても仕方のない発言をしています。

 そもそも元プロデューサーは取材時点でジブリを退社しており、会社の方針についてこたえる立場にありませんでした。しかしそれ以上に残念なのは、アカデミー賞にノミネートされた男優・女優がすべて白人だったり、これまでアカデミー賞監督賞を受賞した女性が1人しかいないことなどで、映画産業の人種差別、性差別に注目が集まっている状況に無頓着だったことでしょう。「政治的に正しい」回答(私はもうジブリの社員ではありませんが、今後は女性監督が活躍することを期待しています)をしていれば、それですんだ話です。

 もうひとつ残念なのは、文面を読むかぎり、「男と女はちがう」と述べたことを謝罪しているように思われることです。かつてのフェミニズムは、「男女に生殖器官以外のちがいはなく、性差はすべて文化的なものだ」と主張しましたが、こうした硬直したイデオロギーを支持するひとはいまでは少数派です。

 幼い子どもにクレヨンと白い紙を渡して好きな絵を描かせると、女の子は赤、オレンジ、緑といった「暖かい色」で人物を描こうとし、男の子は黒や灰色といった「冷たい色」を使って、ぶつかろうとするロケット、別の車に衝突しようとする車などを描きなぐります。これは親や教師が「男の子らしい」あるいは「女の子らしい」絵を描くよう指導したからではなく、男と女では網膜と視神経に構造的なちがいがあり、色の使い方や描き方、描く対象の好みが別れるからです。

 幼児の遊びを観察すると、生後6カ月でさえ、男児は集団での遊びを好み、女児は特定の相手とペアで遊ぼうとします。さらに、言語中枢とされる脳の左半球に卒中を起こした男性は言語性IQが平均で20%低下しますが、女性は9%しか低下しません。これは男性の脳の機能が細分化されていて、言語を使う際に右脳をほとんど利用しないのに対し、女性の脳では機能が広範囲に分布しており、言語のために脳の両方の半球を使っているからです。

 こうした主張がどれも「差別」でないのは証拠(エビデンス)があるからです。逆にいえば、差別発言とは「説明できない(アカウンタブルでない)」主張のことです。

 「男と女はちがう」と指摘することが差別になるわけではありません。問題は、個人の主観的な思い込みやアニメ業界の常識で、「女にはファンタジーは向かない」と決めつけたことにあります。

 このことがわからないと、「差別」との批判を抑圧ととらえ、過剰に自己規制するか、感情的に反発する不毛なことになってしまうのです。

 

『週刊プレイボーイ』2016年8月8日発売号に掲載

橘 玲(たちばな あきら)

 作家。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ベストセラーに。著書に『日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル』(ダイヤモンド社)など。中国人の考え方、反日、歴史問題、不動産バブルなど「中国という大問題」に切り込んだ『橘玲の中国私論』が絶賛発売中。最新刊『「リベラル」がうさんくさいのには理由がある』(集英社)が発売中。

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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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