ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
週末は田舎暮らし ゼロからはじめた「二地域居住」奮闘記
【特別連載 第19回】 2016年10月11日
著者・コラム紹介バックナンバー
馬場未織

田舎で暮らすと、
こどもはこうして「食」を学ぶ

1
nextpage

平日は都会で働き、週末は田舎で過ごす。東京生まれ、会社勤め、共働き、こども3人。「田舎素人」の一家が始めた「二地域居住」。田舎暮らしでこどもたちに強烈な印象を与えた体験は「食べられる自然」だった。今こそこどもに教えたい自然体験の豊かさを、二地域居住奮闘記『週末は田舎暮らし』から、一部を抜粋して紹介する。

◆これまでのあらすじ◆
東京生まれ、会社勤め、共働き、こども3人。「田舎素人」だが「二地域居住」に憧れていた一家は、ついに田舎の家を手に入れ、都会と田舎を往復する生活を実践しながら、自然から多くを学んでいくことになる。そんな暮らしから、こどもたちも「食」への学びを得ることに……。

生きものを喰らう

 そもそもはこどもたち、特に生きもの好きの息子のニイニに良かれと思ってはじめたこの生活。しかし、いざはじめてみれば、親がこどもたちに自然体験を与える、といった悠長かつ一方的かつ限定的なイメージは吹き飛びました。

 畑あり、田んぼあり、川あり、山ありという、佇むだけで生物多様性を実感できるこの地での暮らしでは、想像をはるかに超えてビビッドな出来事が次々と起こり、驚嘆したり感激したりしながら、家族全体が巻き込まれていきました。

 その中でももっとも強烈な体験は「食べられる自然を見つける」ことじゃないかなと、思います。

 「南」と付く名に騙されたことに臍(ほぞ)をかみたくなるほど冷え込みの厳しい南房総の2月。もっとも生きものの気配の少ないこの時期にこそ、楽しみなことがあります。

 朝、まだ太陽が山の向こうから顔を出す前の薄暗い中、起き抜けのパジャマの上にフリース、その上にまたフリース、その上にもこもことダウンを着こんで「今週こそは、出てるかもよ」と、あるものを探しに外に出ます。あちらの斜面地、こちらの斜面地と猫背になって歩きまわり、うろうろ、じろじろ。

 ほどなくどこかから「みっけた!」と弾む声がします。

 あたり一面が枯れ草色に覆われる中、ふわっと光を放つような仄白い芽を出しているのは、フキノトウです。

 かじかむ手で摘み取ると、凝縮した命の匂いが立ちのぼります。凍てつく空気の中に放たれる、その驚くほど濃い青い香気。すごい!と思わず大きな声を出すと、こどもたちが駆け寄ってきて我先にと鼻を近づけます。

 「うわあ、いいにおい!」
「わたしのほうがいいにおい!」
「冬なのに草のにおいだね」
「まだ他のところに草はえてないのにね」
「でもフキノトウも草だよ!」

 と、自分の方が強く春を感じたと言わんばかりに、感想の主張合戦が始まります。

 昼にさっそく、天ぷらにします。クリプトンランプくらいの大きさのフキノトウは、繊細でやわらかいものなので、さっと揚げるだけですぐに火が通ります。台所は外と同じくらい寒く、早く食べないと冷めちゃうので、もう、その場で塩を振って食べてしまう。

 ハフハフ……う、うんまい!

 あぁぁ、なんて幸せな味だろう。

 おいしい、おいしいと半ば無理して食べるこどもたちに苦笑いしながら、それはそれで幸せな気分になってきます。

 味というのは半分、気分のようなもの。自分で見つけたフキノトウをすぐに天ぷらにして、食べる。それが本当の贅沢だということは、大人じゃなくても分かるでしょうし、大人とかこどもといった身分を超えて、きゃーきゃーはしゃぐ連帯感や高揚感がきっと、ほろ苦いフキノトウを豊かな春の味へと感じ替える魔法となっているのでしょう。

1
nextpage
スペシャル・インフォメーションPR
ダイヤモンド・オンライン 関連記事
いまの科学で「絶対にいい!」と断言できる 最高の子育てベスト55

いまの科学で「絶対にいい!」と断言できる 最高の子育てベスト55

トレーシー・カチロー 著/鹿田 昌美 訳

定価(税込):本体1,600円+税   発行年月:2016年11月

<内容紹介>
子どもの豊かな心を育て、頭と体を伸ばしていくために親が知っておきたいことについて、最新の科学研究をもとに「最も信頼」できて「最も実行しやすい」アドバイスだけを厳選して詰め込んだ貴重な本。子にかけるべき言葉、睡眠、トイレトレーニング、遊び、しつけまで、これ一冊さえ持っていれば大丈夫という決定版の1冊!

本を購入する
ダイヤモンド社の電子書籍
(POSデータ調べ、11/20~11/26)


注目のトピックスPR


馬場未織 

 

1973年東京都生まれ。1996年日本女子大学卒業、1998年同大学大学院修了後、建築設計事務所勤務を経て建築ライターへ。プライベートでは2007年より家族5人とネコ2匹、その他その時に飼う生きものを連れて「平日は東京で暮らし、週末は千葉県南房総市の里山で暮らす」という二地域居住を実践。東京と南房総を通算約200往復する暮らしの中で、里山での子育てや里山環境の保全・活用、都市農村交流などを考えるようになり、2011年に農家や建築家、教育関係者、造園家、ウェブデザイナー、市役所公務員らと共に任意団体「南房総リパブリック」を設立し、2012年に法人化。現在はNPO法人南房総リパブリック理事長を務める。メンバーと共に、親と子が一緒になって里山で自然体験学習をする「里山学校」、東京に野菜の美味しさを届ける「洗足カフェ」(目黒区)、里山環境でヒト・コト・モノをつなげる拠点「三芳つくるハウス」の運営などを手掛ける。

 


週末は田舎暮らし ゼロからはじめた「二地域居住」奮闘記

山崎亮氏推薦!「すごくアナログだけど、とても未来的な生活だ。」東京生まれ、会社勤め、共働き、子供3人。「田舎素人」の一家が、都会と里山の往復生活を通して、手さぐり体当たりで見つけたこれからの豊かで新しい暮らし方。土地探しから地域との関わり方、家庭菜園まで、等身大のデュアルライフ入門。

「週末は田舎暮らし ゼロからはじめた「二地域居住」奮闘記」

⇒バックナンバー一覧