経営×ソーシャル

あらゆる個人情報が取得できる時代に、生き残れる企業の特徴

「いつ使っているか」がわかることで、
ビジネスが大きく変わる

國領二郎(こくりょう・じろう)
慶應義塾常任理事、慶應義塾大学総合政策学部教授。1982年東京大学経済学部卒業。日本電信電話公社入社。1992年ハーバード大学経営学博士。1993年慶應義塾大学大学院経営管理研究科助教授。2000年同教授。2003年同大学環境情報学部教授。2006年同大学総合政策学部教授。2009年同大学総合政策学部長。2013年慶應義塾常任理事。主な著書に『オープン・ネットワーク経営』(日本経済新聞出版社、1995)、『オープン・アーキテクチャ戦略』(ダイヤモンド社、1999)、『オープン・ソリューション社会の構想』(日本経済新聞出版社、2004)、『ソーシャルな資本主義』(日本経済新聞出版社、2013)がある。

 しかしこの「大量生産品の匿名大衆への販売」モデルが、ヒトやモノがクラウドコンピュータを通じてつながることにより、大きく変わってきています。わかりやすい例が、紙の書籍の店頭販売と電子書籍の違いです。紙の本を店頭で売る時、どこの誰が買っているのかはわかりません。でも、電子書籍ならば購入に使ったアカウントに紐付いて、誰が買ったか、その人が何ページまで読んでいるかということまで把握することができます。

 そうなると、最初の購入時に決済まで完結させる必要がなくなります。あとから課金してもらうこともできるからです。推理小説の犯人がわかる手前のページまでは無料で読めて、ここから先を読みたければ1000円払う、といったモデルも成立する。また、詰碁や詰将棋の本で、答えを知りたければ1ページ10円ずつ払う、という課金方法も可能です。

 こう考えると、今我々が当たり前だと思っているビジネスモデルが、19世紀、20世紀の技術体系と制約条件によって形作られてきたものだということが理解できると思います。この前提が変わることによって、「所有する」という概念や貨幣経済などが根本から揺らぐのではないか、ということまで一部では語られています。

 「見える」経済の基盤として、もう一つ大きな変化があります。それは、大量のセンサーが生み出す場面情報の活用が可能になったことです。これまでは情報を得るポイントは、店頭のキャッシュレジだけでした。POS(point of sales)システムというのは、導入された当時、サプライチェーンの構造に大変革をもたらしました。でもこれではまだ「販売時点」の情報です。

 今ではさらに、IoTによってPOU(point of use:使用時点)情報が手に入りつつあります。つまり、「こういう属性の人がA社のカップラーメンをいつ買っている」という情報だけでなく、「買ったカップラーメンをいつ食べているか」ということまで知ることができるのです。例えば、そのカップラーメンが夜11時によく売れていたとしても、じつは夜食用ではなく、朝ごはんとしてよく食べられている、ということがわかったとします。そうすると、商品開発のコンセプトも変わってきますよね。こうした末端から発信される膨大な情報を、AIなどを活用して分析すれば、顧客の求める商品を欲しい時に、欲しい場所に届けることができるようになります。そうすると、また大きくビジネスモデルが変わるでしょう。

 末端から集まる膨大な情報はビッグデータと言われています。それは個人について深く知るという縦軸、つまり購買データで言うと一人の購買履歴を追いかけるものと、集団をより広くカバーする横軸、つまり横断的に消費者のデータを集積するものの2軸があります。しかし、集めるだけではゴミの山になってしまう。ここでいまネットワークの質、「Quality Of Network」が問われるようになってきています。

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