科学や医療の世界では、思わぬものや偶然から生まれた画期的な発見がたくさんある。がん研有明病院の有名医師、比企直樹消化器外科胃外科部長が発見した胃がん等の内視鏡検査・治療に用いられている薬も、ラジオ番組で「ミミズにミント水をかける理由」を聞いてひらめいたものだという。(医療ジャーナリスト 木原洋美)

リンゴや青カビをヒントに大発見する力
セレンディピティ

 セレンディピティという言葉がある。 

「ミミズにミント水」がヒント、画期的な内視鏡薬の発明物語「ミミズにミント水」がヒントになった…

 これは、「思わぬものを偶然に発見する能力」のこと。3人の王子が登場するセイロンのお伽噺から生まれた言葉である。日本のことわざに当てはめるなら、「瓢箪から駒」といったところか。

 科学の世界では、アイザック・ニュートンのリンゴの話が有名だ。リンゴが落ちるのを見て、「なぜ物は落ちるのだろうか?」と疑問を抱いたニュートンが思考をめぐらせ、「あらゆる物には、互いに引き合う力がある」という万有引力の法則発見に至ったというあの話。

 一方医学の世界では、ペニシリン発見が、典型的なセレンディピティにあたるだろう。

 ペニシリンは細菌感染の治療で使われる薬で、1929年にイギリスのアレクサンダー・フレミングによって発見(論文発表)された、世界初の抗生物質だ。1928年、黄色ブドウ球菌の培養実験をしていたフレミングは、シャーレのフタをうっかり閉め忘れてしまう。

 その結果、シャーレに青カビが大量発生。ブドウ球菌培養の実験としては大失敗だが、転んでもただでは起きないフレミングは、青カビが発生した周辺だけ、黄色ブドウ球菌が繁殖していないことに気づく。