3月に入ってから、ほぼ1週間をかけて石川県、富山県、静岡県の伊豆半島を、日本に生活の基盤をもつ新華僑の友人たちと一緒に回った。インバウンドの誘客についていろいろと考えさせられた。

 伊豆では、稲取温泉の銀水荘に泊まった。念願の宿泊先だった。30年前、つまり留学生時代、私は日本設計事務所と、いまやすでに存在していない青木建設で、設計図面の翻訳をアルバイトとしてやっていた。

 当時、青木建設と日本設計は上海で高級ホテル太平洋飯店と世界貿易センターの建築にかかわっていたから、設計図面を中国語に翻訳して上海側に提出する必要があったのだ。そこでピーク時10名近くの中国人留学生がその図面翻訳に取り組んでいた。

 しばらくして私が翻訳した図面が一回も上海から誤訳などの問題で返品されたことがなかったため、翻訳チームのリーダーに命じられた。私を激励するために、上海プロジェクトの担当部長が「仕事が一段落したら伊豆の銀水荘での一泊旅行に招待しよう」と声をかけてくれた。

 しかし、こうして覚えたその銀水荘だったが、実は宿泊したのは今回が初めて。まさに感無量の宿泊先なのだ。

能登の人気温泉旅館では
いまだにWiFiが使えず困った

 目の前に広がる相模湾の風景を楽しめながら、温泉に浸っていたときも、豪華な食事に目を奪われながら、銀水荘が自慢する「和の心」に感心していたときも、30年間の歳月が教えてくれた諸々のことが胸の中で去来していた。

 個人的体験や感想もさることながら、観光客を受け入れる伊豆、とくに地元の温泉旅館の変化と進化に感激した。

 今回の旅行は石川県の能登半島から始まったものだが、ほとんど、温泉旅館に泊まっていた。石川県ではWiFi整備の遅れに泣きに泣いた。人気の大型温泉旅館なのに、客室はもちろん、ロビーでもWiFiが使えないのだ。書き上げた原稿や仕事関連の書類の送信に苦労した。